『隣国への足跡』  黒田 勝弘さん  (KADOKAWA・1728円)

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 ■韓国に深入りは禁物

 日本は韓国との付き合い方に悩んでいる。朝鮮半島の日本統治時代に対する反省と謝罪を要求し続ける韓国にいら立つ風潮もあり、書店には「嫌韓本」が並ぶ。かといって、「韓国に身を寄せた贖罪(しょくざい)意識だけでも真実は見えない」。ソウル在住通算35年に及ぶ朝鮮半島ウオッチャーは言い切る。「嫌韓」にも「贖罪」にも陥らず、韓国とどう付き合うべきか。

 本書では、19世紀末から日本と朝鮮半島との関わりを整理し、その答えを探った。自身の個人史も重ねた20世紀の日韓関係史でもある。豊富な取材で得た逸話が興味深い。

 考古学者有光教一さんは戦時中、朝鮮総督府博物館職員として館の所蔵品を疎開させた。戦後の米軍政下、残留を命じられて韓国の国立博物館開設に協力した。生前、「生涯で最も満ち足りた日々だった」と当時を回想している。

 朝鮮王族で日本の陸軍中佐となり広島で被爆死した李〓(イウ)殿下。遺体は京城(現ソウル)に運ばれ、8月15日の玉音放送1時間後に陸軍葬が営まれた。皇族出身で「日韓融和」策による政略結婚で李王朝最後の皇太子妃となった李方子(りまさこ)さんは戦後も韓国に残り、福祉事業に半生をささげた。その葬列は1キロに及び、「わが国の王妃」として韓国人に見送られている。

 「支配・被支配の時代にも誇りに思える日本人がいたことはホッとするし、歴史の真実として書き残さないといけない」。支配側の歴史を正当化する開き直りではない。韓国人の年配者が公式の場を離れた時に日本統治時代を懐かしむような「本音」に接して「本当のことが日本に伝わっていない」と痛感、一面的な歴史認識ではいけないとの確信からの言葉だ。

 1941年生まれ。韓国との付き合いは、共同通信記者時代の71年から。77年には釜山の民家に一カ月住み込んで連載を書いた。「韓国人が自分の感情に正直なのが新鮮だった」。ソウル支局長を経て、89年、無期限ソウル駐在を条件に産経新聞社へ移り現在客員論説委員。本書は「記者生活、コリアとの付き合いのまとめ」となる。

 韓国と一定の距離を保つ文章には愛読者も多い。その距離感を示す言葉として、こんな言葉を挙げた。「この地には足を2本とも入れてはいけない。いざという時に足が抜けなくなり、身動きができなくなる」。須之部量三元駐韓大使が語った心得という。

 「将来、南北統一が現実となったとき、日本にも責任がある、金を出せと言われても乗ってはいけない。深入りは禁物」。皮肉めいた言葉も逆説的な愛情表現である。


=2017/08/13付 西日本新聞朝刊=

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