『玄洋社とは何者か』  浦辺登さん  (弦書房・2160円)

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■足で確かめ、通説に挑む

 玄洋社。近代史の節目節目に顔を出す福岡の政治結社だが、その正体は何か。

 よく言われるのは「右翼」「国家主義者」。大隈重信に爆裂弾を投げつけ暗殺しようとした来島恒喜(くるしまつねき)が属したため「テロリスト集団」とみる人もいる。確かに、玄洋社の中心人物だった頭山(とうやま)満は「殺身成仁」(身を殺して仁を成す)という自爆テロを勧奨するかのような言葉を残している。

 本当にそうなのか-。歴史作家で書評家の浦辺登さん(61)=福岡市=は30年前、疑問を抱いた。衆議院議員や香川県知事を歴任した福岡出身の政治家、小野隆助のことを調べていて、小野が玄洋社員と知り、「右翼」という玄洋社のイメージがゆらいだ。以来、玄洋社のことを調べ続けてきた。

 「東京の来島恒喜の墓はもともと勝海舟が建てたものです。博多の聖福寺にある平岡浩太郎(玄洋社初代社長)の顕彰碑の篆額(てんがく)は、玄洋社員に爆弾を投げつけられた大隈重信なんです」。墓を巡ると、「玄洋社=右翼」とひとくくりにできないような事実が次々に見つかった。「お墓は立体的な歴史の書です」。関係者の墓を巡って得た事実と文献とを突き合わせ、玄洋社の実像を探っていった。

 本書は、入門書にもなるよう平易に書いた。設定した54のテーマは、玄洋社は自由民権運動の中から生まれた団体であること、博多港築港をはじめとする地域開発を推進したこと、アジア各国独立の動きを支援したこと-など。豊富なエピソードから、多様な玄洋社の姿が浮かび上がる。キリスト教の影響、玄洋社員と夏目漱石との交友など意外な話も多い。大隈重信暗殺未遂事件は、不平等条約改正を巡り憲法違反も辞さない大隈の暴走を止めるための「義挙」と位置づけた。このあたりの見方には郷土の先達への敬意や、「慈悲」をモットーとした頭山の影響も感じられる。

 「東京の頭山邸には、無政府主義者も共産党員も寄宿していた。人と人とのつながりを大事にし、右も左も包含する。そういう度量を持った伝統的地域共同体が玄洋社だったと思います」

 浦辺さんは1956年、福岡県筑紫野市生まれ。学生時代、ドイツ東西統合前の東ベルリンを旅行した体験が歴史と向きあう原点という。「日本では当時、東ドイツを絶賛する人が多かったのに、入国審査の書類の紙はボロボロ。とても貧しい国でした。世間で言われていることの反対側に真実があるかもしれないんです」。次は、明治期の日中関係を見直したいと構想を練る。


=2017/09/17付 西日本新聞朝刊=

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