『バテレンの世紀』  渡辺 京二さん  (新潮社・3456円)

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■西洋との最初の接触を詳細に

 1543年、ポルトガル人が種子島に漂着する。それから、いわゆる鎖国が完成するまでの約100年間、日本は西洋に初めて接触した。それはキリスト教との遭遇でもあった。熊本市に住む渡辺さんの新著は、この「バテレンの世紀」の詳細な通史である。

 「日本についての宣教師の報告がローマのイエズス会などに膨大にある。戦後、活用が進んで、キリシタン研究はとても進歩した。その割に通史が書かれていない。まあ、面白いからやったんですよ」

 外国人が書き残したものを読み解いて歴史を記述する手法は、近代化によって失われた日本の姿を描き出した代表作『逝(ゆ)きし世の面影』、開国以前に北の海であった西洋との接触を活写した『黒船前夜』と同じである。「外国人は、日本人が当たり前だと思って書いていないことを、珍しがって記録している。だから、臨場感があるんだ」

 本書によると、1559年、京都に入った宣教師が苦労して購入した家は、夜は屋根の隙間から星が見え、わらの壁からだれでもどこからでも自由に出入りできた。家財道具の入手も難しく、やっと手に入れた鍋の一つは古かぶとだった-。宣教師の文書から「当時の庶民生活のおそるべき貧しさ」が垣間見える。

 日本側の記録では分からない宣教師たちの行動も浮かび上がる。豊臣秀吉のバテレン追放令に対し、イエズス会がスペインのフィリピン総督に派兵を要請し、秀吉との対決をキリシタン大名に求めたこと、伊東マンショら4人の少年がローマへ向かった天正遣欧使節は宣教師の野心から生まれたことなど、生々しいエピソードが次々に登場する。「歴史の本当の面白さはエピソード。エピソードを通じて時代の流れが浮かび上がる。そういうのが面白いんだ」

 キリシタンを主とする百姓一揆、島原の乱を経て、1639年にいわゆる鎖国が完成するが、鎖国しなければ、スコラ神学が日本に伝わっていただろうと、渡辺さんは想像する。「伊藤仁斎や荻生徂徠(おぎゅうそらい)がスコラ神学のような西洋哲学と格闘したら、何かが生まれてきたんじゃないか、惜しいチャンスを失ったんじゃないかって思うのね」。渡辺さんの著述を読む大きな楽しみは、このような“歴史の分岐点”を確かめ、私たちが手放したものを知ることにある。

 「足はだいぶん弱ったけど、読み書きは衰えていない。書くのは自分の楽しみだし、生きてるからまた書きますよ」。今年米寿を迎える思想史家は、長年の盟友である作家、石牟礼道子さんを失った悲しみの中にあっても、止まろうとはしない。

=2018/03/11付 西日本新聞朝刊=

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