『言鯨16号』  九岡 望さん  (早川書房・842円)

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■砂の世界を舞台に本格SF

 砂に覆われた星。砂の上を船は進む。目指すのは森。そこには黒々とした「言骨(いこつ)」が生い茂る。この世界で神と呼ばれる存在「言鯨」が生み出す万能の物質である-。

 小説『言鯨16号』で、架空の砂の世界を精密に組み立てた。「文明が一度なくなった後を書きたいなと思っていて。それなら砂か水の世界だろうなと考えて、今回は砂にしてみた」

 歴史好きの少年が世界の謎に迫っていくSF長編。主人公の旗魚(かじき)は言骨を採集する砂上船で働いていた。偶然、あこがれの歴史学者、浅蜊(あさり)と出会う。共に船を抜け出すと、砂の世界の生成に関わるという言鯨のなぞを探るため、言骨が急増殖した森を目指す。

 砂漠にすむ不気味な生物「蟲(むし)」を操る蟲屋、高速船を操って何でも運ぶ非合法の運び屋、言骨の加工師など、一癖も二癖もあるキャラクターたちの存在が無機質な世界に湿度を与える。そして、〈機械でも生き物でもない。巨大で、音も気配も発さず、恐ろしく黒い〉と表現される言鯨の圧倒的な存在感が全編を覆う。

 「怪獣映画的な部分があるんですよ。あと、漫画的とか映画的とか。いろんな僕の中の蓄積を出してみた結果がこれです」

 1988年、熊本県水俣市で生まれ、現在も暮らす。福岡大の文芸部時代から毎回応募していたライトノベルの文学賞「電撃小説大賞」を、卒業してすぐの2011年に受賞。翌年、受賞作『エスケヱプ・スピヰド』が刊行されてデビューした。これまでライトノベルの世界で活躍してきた九岡さんにとって、本作は初の本格SF長編となった。

 「(版元の)早川(書房)はSFの名門。書き始めた頃は肩に力が入っちゃって。そこを抜きつつって感じで丸々書き直したりしてたら、2年ぐらいかかった。難産でした」

 本作でも、「ストイックなまでの荒涼感」(作家の高畑京一郎さん)、「戦闘シーンの文章力には嫉妬します」(作家の時雨沢恵一さん)と同賞の選考委員に称賛された持ち味は存分に発揮されている。

 作品はエンターテインメントであることを意識している。「読んで1週間で忘れてもらっても構わない。おもしろかったなあと、読後感がいいものを書きたい」

 一方で表現の実験を試みることもあり、愛読するSF作家の一人、筒井康隆さんの影響を感じさせる。

 年内にもう1冊出す準備を進めている。「B級アクション映画の爆発カーチェイスみたいな。そういうのも実は大好きなんです」

=2019/03/16付 西日本新聞朝刊=

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