『忘却の引揚げ史』  下川正晴 著  (弦書房・2376円)

『忘却の引揚げ史』  下川正晴 著  (弦書房・2376円)
『忘却の引揚げ史』  下川正晴 著  (弦書房・2376円)
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 かつて福岡県筑紫野市に「二日市保養所」があった。日本の敗戦後、満州(現在の中国東北部)などから引き揚げるときに、ソ連兵らの性被害に遭った女性たちが中絶手術や性病治療を受けた施設だった。開設期間の1946~47年に、当時非合法だった中絶手術を400~500件行ったという。元毎日新聞記者の著者は、直接の関係者だけでなく、ドキュメンタリー番組の制作者や研究者の業績も取り上げ、歴史の中に埋もれた施設の姿を多面的重層的に描き出した。

 特に紙幅を割いたのは、後に東京大教授となる泉靖一の業績。泉は博多へ引き揚げた際、性被害者のことを知り、国や有力者に働きかけて施設を開き、支援体制を築いた。日本を代表する文化人類学者の知られざる一面に光を当てている。


=2017/08/13付 西日本新聞朝刊=

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