水俣病 閉ざした思いやっと 被害者ら40人の声 一冊に 相思社の永野さん 12日出版

12日に発売される著書を手に「私たちは水俣病の歴史の延長にいて、決して無関係ではないことを知ってもらいたい」と話す永野三智さん
12日に発売される著書を手に「私たちは水俣病の歴史の延長にいて、決して無関係ではないことを知ってもらいたい」と話す永野三智さん
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 水俣市の一般財団法人「水俣病センター相思社」の常務理事で、患者や被害者の相談に応じている永野三智さん(34)=同市=がつづった初の単著「みな、やっとの思いで坂をのぼる」が12日、出版される。家族にも言えない秘密を打ち明けた女性、症状の進行に悩む夫婦、認定患者への複雑な思いを吐露した近所のおじさん…。当事者が長年胸に閉じ込めてきた声を聞き取り、所感を交えた記録に仕上げた。

 〈被害を受けた人はなかなか語ろうとしません。語らないのではなく、語れないのです。しかし、その語られないことに、真実があると思うのです。なかったことにはしたくありません〉

 2008年に相思社の職員となった永野さんは、日々寄せられる患者や被害者からの相談、顔なじみの人から掛けられた言葉などを日記に付けている。4年前、東京の出版社に誘われて書籍化を決意。本著には約40人の声無き声と、一人一人に寄り添い共に思いを分かち合ってきた足跡が刻まれている。

 〈闘う人の気持ちをおじちゃんに伝えたいと思った。でも、おじちゃんはもう十分に闘って、そして自分自身と決着をつけたのかもしれない、といまさらのように思い当たった〉

 水俣市の患者が多発した地区で生まれ育った。幼い頃から「水俣病」に囲まれ、嫌で逃げ出した時期もあった。故郷に戻り、水俣病の今を知って「伝える」という役割を自らに課した。住民同士のわだかまり、ふとした拍子の差別の構図、偏見がもたらす悲しい現実にも直面し、受け止めてきた。

 発売日は、師と仰ぐ溝口秋生さん(享年85)の一周忌に合わせた。亡母の患者認定を巡る「溝口訴訟」で最高裁判決を勝ち取り、「生きることの大切さ」を教えてくれた人だ。最近ようやく遺影を見られるようになり、出版を報告した。

 「私たちの暮らしの裏側に、苦しみを抱えている人たちがいることを、私たちは知っていなければいけない」と永野さん。タイトルには、相思社までの長い坂を上り、心を開いて帰っていった人たちへの敬愛の念を込めた。被害者側の視線からたどった水俣病の歴史、行政や社会に向き合う日常なども描かれている。出版社「ころから」刊、四六変形判で256ページ。1944円。

=2018/09/11付 西日本新聞朝刊=

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