アーティストは炭坑のカナリア 新アルバム「マニジュ」リリース 佐野元春さん

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 1980年代から日本の音楽シーンを引っ張ってきた佐野元春さんが、自ら演奏を確かめて選んだメンバーと構成する「ザ・コヨーテ・バンド」名義で2年ぶり4作目のアルバム「マニジュ」を発売しました。前作よりもポップな印象ながら、現代社会への啓示のような深読みもできるソングライティングは健在で、来年2月の福岡ライブでのお披露目が楽しみです。

 -今回のアルバム、前作との違いは?

 ★佐野 前回の「ブラッドムーン」というのはどちらかというと成熟した大人をスケッチして描いたものですけど、今回のアルバムはもっとポップにしました。

 -ポップに表現したということですが、非常にメッセージ性も強い作品だと思いますが。

 ★佐野 どんなメッセージを受け取るかは聴き手によると思います。12歳の人と50歳の人では経験が違いますから。聴く人によってメッセージもいろんなふうに変容する。そういうソングライティングが僕は好きです。

 -「現実は見た目とは違う」という曲の中に〈本物の聖者〉と〈偽物の聖者〉が出てきます。今「フェイクニュース」という言葉が良く聞かれますが、そのようなことをイメージしているのですか?

 ★佐野 ジャーナリストはこのような音楽を聴くと、今現実に起きていることと照らし合わせる。そのような知的な聴き方をしていただくのは大変光栄なこと。ただ、12歳の女の子にふられた男の子が「あなたは現実と見た目が違うね」って言われるのもいいな、と僕は思う。作者の方からこれを言いたい、という特に固定的なものはない、ということですね。

 -今の社会、表現の自由が危機にある、という印象もあります。

 ★佐野 僕らアーティストはそもそも自由ですから、権力が差し向けてきた検閲とか、そうしたものからうまく逃れるスキルを持っている。もし、今の時代が表現の自由に規制を加えてくる傾向があるのであれば、まさにわれわれの出番です。アーティストは人が見えないものを見て、聞こえないことを聞いている。それを形にして相手に伝える炭坑のカナリア的な存在なんです。だから人にウォーニング(警告)を与える面もあるだろうけど、世間はこうあるべきだ、という主張は持っていないんです。

 -アルバムの1曲目「白夜飛行」と10曲目の「夜間飛行」は同じ歌詞ですよね?

 ★佐野 そう。ほとんど同じでメロディーと演奏が違う。これは演劇的な手法ですかね。白夜飛行は演劇でいうと序幕。そしてストーリーが進行して、夜間飛行は終盤の方に据えて、演劇的な言葉で言うとリプリーズ(反復)。最初に出したテーマを少し表情を変えて出して、最後の大団円に向かっていく、そういう手法を取り入れて試してみました。

 -こういう手法は時々使っているのですか?

 ★佐野 時々やっています。音楽アルバムは1曲1曲のただの集まりではなく、1曲目から10曲目、12曲目と聞いていただいて、一つのストーリーを感じていただけるような、コンセプトを持った表現だと思うんですよね。60年代70年代はそういうアルバムがたくさんあったけど、そうしたものを聴いて育ってきたので、自分も表現するのではあれば、そうしようと。ただ、単曲で聴いてもらうのも僕は好きです。もし僕が12歳だったらお金そんなにないですから。僕のこのアルバムに収録している曲は1曲1曲ポテンシャルが高い魅力的な曲を作ったつもりなので、バラでも12曲を組みで聞いてもらっても、聴き手に何かを感じてもらえるはずです。

 -来年2月には福岡国際会議場でライブです。

 ★佐野 今回のアルバムから何曲か披露したいし、僕のライブに80年代から来てくれているファンの人たちもいるので、80年代90年代の曲も取り入れながら、ゴキゲンなショーにしていきたいと思っています。

 ▼さの・もとはる 1956年3月13日生まれ東京都出身。80年3月、「アンジェリーナ」でレコードデビュー。80年代に「SOMEDAY」「VISITORS」などのアルバムをヒットさせた。今アルバムのザ・コヨーテ・バンドには深沼元昭(ギター)、小松シゲル(ドラム)、高桑圭(ベース)、藤田顕(ギター)、渡辺シュンスケ(キーボード)が参加している。


=2017/09/17付 西日本新聞朝刊=

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