昭和的な詩情 新しい音に乗せて 新アルバム「サクラ」を発売 前野健太さん

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 詩情あふれる歌で時代を切り取ってきたシンガー・ソングライター、前野健太さんが4年半ぶり6作目のアルバム「サクラ」を出しました。昭和の歌謡曲の雰囲気を漂わせつつ、洗練されたサウンドで彩られています。歌謡曲的な分業制を取り入れつつも、アルバムで目指したのは「今の音楽」であり、「新しい音楽」でした。

 -久しぶりのアルバムですね。

 ★前野 一昨年は映画「変態だ」に出演。昨年は初めて舞台に出たり、またエッセー集を作ったり。休んでいる感じはなかったんですけど、歌がたまっていったんで、出したいなと思ってたんです。

 -コンセプトは?

 ★前野 アレンジャー(編曲家)を入れるというのが出発点。昭和の歌謡曲じゃないですけど作詞家、作曲家、歌手、プロデューサー、アレンジャーがいる分業制だった時代の雰囲気のものにしたかった。

 -これまではソロ、バンド形式が多かったです。変化の理由は?

 ★前野 聴いている音楽が変わっていったんです。ロック寄りから離れて、ちあきなおみさん、荒木一郎さんとかが好きになった。するとバンドより分業制って感じになったんです。

 -声も変わった気がします。

 ★前野 3年前から声楽の先生に教えてもらってるんです。昔の人たちは本当に歌がうまい。フランク永井さん、石原裕次郎さんとか低音がいいじゃないですか。今の男性シンガーは高い音が多い。僕も前は線が細く、高音で揺らいでいる感じだった。でも今作の収録曲「防波堤」とかでは、低い感じ、奥行きをすごい出せた。

 -影響を受けたのは昭和的なもの。フォークの要素もある。でも音、アレンジは現代的ですね。

 ★前野 海外の最新ジャズみたいなのもありますしね。昔の歌謡曲の焼き直しにしたくはなかった。当時の音楽も攻撃的で新しかったはずだし、自分も新しい音楽を歌おうと。新しいサウンドの中に乗せて歌があるのを目指しました。

 -かつては「東京」を歌った曲も多かったですが、少なくなりました。

 ★前野 東京に「もういいや」ってのは常々思っていますけど、意識はしてません。前は練馬、今は新宿に住んでいる。都心に入っていったことによって細かい物語になった。「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」はストリップ劇場の踊り子さんの話だし、「人生って」はジャズ喫茶のママとの話を取り入れた曲。東京という街全体よりその中の(細部に)フォーカスしていった。

 -「アマクサマンボ・ブギ」は競走馬の歌ですね。

 ★前野 競馬好きなんですよ。特に地方競馬が。九州でいえば佐賀競馬(佐賀県鳥栖市)。良かったですよ。動物園のような使われ方をしていてスタンドで子どもが馬と競って走っているし、周りは山で気持ちいいし。素晴らしい場所ですよね。そこに歌を作りに行っているわけではないけど、魅力があるところって歌になります。

 -タイトルは「サクラ」。これまでの「オレらは肉の歩く朝」などとはかなり違いますよね。

 ★前野 詩人であり、童謡などの作詞もした西条八十(やそ)さんが好きなんです。詩と歌詞は違うんですよね。西条さんは歌詞で易しい言葉を使っても詩情を落としていないし、深いところは失わない。そこにチャレンジしたかった。今まで自分がやってきたことは日本語の歌だし、詩情を大事にしてきた。そう思った時に「サクラ」ってぴったりじゃんって。メジャーな言葉だけど、人によってイメージすることが違う。面白いなと気付いた。

 -現在、文芸誌「すばる」でエッセーを連載しています。

 ★前野 文章から入ったファンもいて、「歌手なのに歌うまくないじゃん」とか言われもするし、「エッセーの方が歌を感じる」という人もいる。音楽ではできない歌心の部分を書いているところもあるので、それを伝えられるというのはうれしいですね。

 -マルチな活動で変わったことはありますか。

 ★前野 いろいろなことを発見してもらった。映画は「どんなことでもできるな」と思わせてくれたし、舞台では森山未来さん、岩井秀人さんが僕の面白さを見つけてくれた。自分の魅力って自分では分からない。だから今回はジャケットアイデアを任せたりしました。

 -ライブをやる福岡の印象は?

 ★前野 人間が朗らかな気がします。毎日ゆるい祭が行われている感じですね。福岡の方に生で聞いてもらえるのはうれしいです。

 ▼まえの・けんた 1979年埼玉県生まれ。2007年に「ロマンスカー」でデビュー。アルバムに「ハッピーランチ」など。16年の映画「変態だ」(みうらじゅん原作・安斎肇監督)で主演。17年には、森山未来、岩井秀人との舞台「なむはむだはむ」に参加、エッセー集「百年後」を刊行した。31日午後7時から福岡市の「ビートステーション」で公演。前売り3800円。BEA=092(712)4221。

=2018/05/19付 西日本新聞朝刊=

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