永瀬正敏、監督との出会いはFB 河瀬直美の最新作に出演 役者同士の私語は一切ダメ、徹底した役作り

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 河瀬直美監督の最新作「Vision」は奈良・吉野を舞台に、言語や人種の違いを超えたつながりをテーマに据えた幻想的な映画です。森の中にいるような映像美が印象的で、永瀬正敏さん(51)がフランスの女優ジュリエット・ビノシュさんを相手に寡黙な山守を演じています。

 -撮影の何日も前から山にこもったそうですね。

 ★永瀬 ええ。映画に出てくる山奥の家に撮影が終わるまでずっと暮らしていました。家の裏が断崖絶壁で、ドンとものすごい音がしたと思ったらシカが落ちてきた。そんな山奥で、監督からミッションを与えられましてね。

 -ミッション?

 ★永瀬 撮影があろうがなかろうが毎朝起きたら家の裏手のご神木や近くの神社にお参りし、山を散歩し、畑の世話をする。暇な時はずっとまき割り。地元の山守さんからチェーンソーの使い方や枝打ちを特訓してもらい、心の在り方を一番教わりました。今、木材に使われる木はおそらく先々代が苗を植えたもの。未来の人のために、いかにいい仕事を残していくかという心構えです。実際にそこに住み、自然の美しさを感じ、経験値の積み重なりが役の血肉になっていきますね。

 -徹底した役作りですね。

 ★永瀬 河瀬組はいつもそうです。役者同士の私語は一切ダメ。僕が演じた智(とも)のままであればビノシュさん演じるジャンヌとは話せる。でも「昨日は大変だったでしょう」なんて私語はできない。役を生きる、監督は「役を積む」と言われ、順撮りだから映画も時間を積む感じです。

 -河瀬作品は3本目。監督とはどういう出会いでしたか。

 ★永瀬 フェイスブックで出演のオファーが来たので、なりすましだと思いました。後で所属事務所に連絡があり、本当だったのかとびっくりしました。

 現場ではリハーサルなし、「用意」「カット」も掛からない。ビノシュさんとも、智とジャンヌが初めて会うシーンまでは顔合わせはない。だから、永瀬の気持ちなのか智の気持ちなのかとても曖昧で、気が抜けない現場でした。

 -ビノシュさんは世界三大映画祭すべての女優賞を受賞した名優です。どんな俳優でしたか。

 ★永瀬 そこが河瀬組の難しいところで、僕が会ったのはビノシュさんなのかジャンヌなのかよく分からない。同性から圧倒的な支持を得ている方ですからね。深い存在でした。許されるならもう一度、今度はフランスで共演したい。

 -そもそもなぜ俳優に。

 ★永瀬 故郷の都城は小さな町で、学校指定じゃない映画を見に行ったら補導されるような感じでした。俳優になりたいなんてこれっぽっちも思わなかった。たまたま相米慎二監督の「ションベン・ライダー」(1983年)に出て役者がやめられなくなりました。相米さんに1回も「OK」をもらったことがなく、「まあそんなもんだろう」がOK。監督に思わず「OK」と言わせる役者になるのが目標だった。でも、亡くなられたのでOKをもらえないままです。監督は今でも僕の映画の先生です。

 -今回の智もそうですが、最近、受け身の役が多いですね。

 ★永瀬 多いけれど、この前、サルをやりましたよ。石井岳龍監督の「パンク侍、斬られて候」(30日公開)で特殊メークして人間の言葉をしゃべるサルの役。あれはめちゃめちゃ能動的です。

 -写真家でも活躍してますね。

 ★永瀬 実は祖父が戦前、都城で写真館を営んでいました。戦後、食糧不足で食べ物を得るため、買い戻す約束で知り合いにカメラを渡したら、持ち逃げされたそうです。その後カメラは持てなかったけれど、僕が小さいころ庭で日光写真をやっていると散々口を出した揚げ句、全部やってしまった。親戚で記念写真を撮る時も一番おしゃれをしてきました。祖父にとっては写真が特別だったんだと思います。

 ある時、実家の倉庫から種板や彼の研究ノートが出てきて、顔の影の付け方とかメモが残っていた。それを発見した時にやっぱりポートレートが撮りたいと思い、最近は人を撮ることが多いですね。

 ▼ながせ・まさとし 1966年生まれ、宮崎県都城市出身。83年に映画「ションベン・ライダー」でデビュー。「ミステリー・トレイン」(ジム・ジャームッシュ監督)など国内外の映画に多数出演。河瀬監督作では「あん」(2015年)「光」(17年)。「Vision」は昨年のカンヌ国際映画祭で河瀬監督と共にビノシュさんに出会ったのがきっかけで製作された。

=2018/06/09付 西日本新聞朝刊=

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