リリー・フランキー語る「万引き家族」の舞台裏 タンクトップ1枚での撮影からカンヌのレッドカーペットに…

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 カンヌ国際映画祭で最高賞となった是枝裕和監督の「万引き家族」は格差社会の底辺で生きる疑似家族の物語です。主演のリリー・フランキーさんが演じたのは、息子に盗みしか教えられないけれど情の深い父親。筑豊地方で過ごした少年時代を思い出しながら撮影に臨んでいました。

 -カンヌ映画祭でレッドカーペットを歩いた時の気持ちは?

 ★リリー 撮影を1月末までやっていて、しかも、貧乏な家でみんなの衣装もタンクトップ1枚というような映画だから極端に飛躍がありました。世間から見逃されそうな家族の話に注目してくれるカンヌ、そういう映画を選ぶ基準がうれしかったですね。

 -今回の映画の出演依頼はどう受け止めましたか。

 ★リリー プロットをもらっていい話だなと思いました。犯罪でつながっている家族だから断罪されるべきです。でも、最近、ニュースを見ても白と黒しかなくて、何か一つ悪いと世の中が袋だたきにしていく。その裏側にある何か見落としていること、見ようとしていないことにフォーカスを当てていく。それが是枝さんらしい。

 -監督の注文は?

 ★リリー 撮影前に随分やりとりをしました。最初は手紙で。でも、時間がかかる。LINE(ライン)で長く文字を打つのも面倒くさくて、手書きした紙を写真で撮って送り合っていました。オーダーは明快。「最後まで成長しない、でくの坊のお父さんでいてください」。万引していた子に罪悪感が芽生えたりとか、お父さん以外はみんな成長しています。

 -成長しない役は難しそう。

 ★リリー 自分の中にある寂しさ、喪失感、ダメな部分を増幅して、簡単な役ではなかった。どんなにちゃんとした人でも高潔な聖人はいなくて、97パーセント正しくても3パーセントの邪気を持っている。その邪気に触れる瞬間がある。是枝さんはそういうのを演じてほしいんじゃないですか。

 -実生活では幼いころお父さんと離れて暮らしていましたね。

 ★リリー その経験は結構役に立ちました。夏休みにおやじの所へ行ってたんですが、おやじは夕方まで寝ているし、夕方になるとふらふら出かけていく。電話で居留守を使う。映画に出てくる息子の祥太くらいの頃、あれ、この人、大丈夫なのかな、よその父親と違うと思っていました。

 -祥太に幼いころの自分を重ねたんでしょうか。

 ★リリー そうですね。逆に、あの頃を思い出しながら自分の父親をデフォルメして今回の役をやっているんですね、多分。

 -妻役の安藤サクラさんは?

 ★リリー とんでもなく素晴らしい女優さんです。人間としてちゃんとした人からしか出てこない狂気がある。おかしな人がおかしなことをやれるという錯覚があるけれど、ちゃんとした人じゃないとできないリミッターの外し方が安藤さんにはありました。

 -是枝作品の魅力は?

 ★リリー 何が美しくて何が美しくないのかみたいな感覚的なものが近いのかもしれません。監督とは年齢も一つしか違わないし。人とご飯を食べていて、あれ、あの人におかずが来ていないとか、気になる場所がね。

 撮影現場は穏やかだけど、精度の高いものを作るという濃密な空気感があって、心地いいし、勉強になります。いい物を作るって諦めずに丁寧にちゃんとやること。撮影は、日々忘れがちになることを確認しに行くという感じです。

 -「家族」を描く是枝作品に共感するのは、人間関係が濃密な筑豊で育った影響もあるのでは?

 ★リリー どうでしょうね。「万引き家族」で、花火の音がして花火が見えなくても家族みんなで縁側に出て見上げるシーンがある。ものすごく豊かですよね。犯罪者集団だけど、見ている人はあのままにしてあげたいと思うんじゃないでしょうか。

 俺が小学生だったころ、炭鉱が閉山になり失業する人が多かった。そんな友達の家に行っても「飯食ってけ」と言ってくれた。身の丈で生きている人って貧しくないと思うんです。身の丈を越えた生活を求めると四苦八苦する。1丁50円の豆腐をおいしく食べられるのが一番幸せじゃないですか。

 ▼リリー・フランキー 1963年北九州市生まれ。中学まで福岡県宮田町(現・宮若市)で暮らす。大分県立芸術短大付属緑丘高校を経て武蔵野美術大卒業後、イラスト、エッセーなど多彩な分野で活躍。2005年に長編小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」を発表。是枝作品には「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」に出演。

=2018/06/16付 西日本新聞朝刊=

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