中村獅童、がんから復帰 取り戻した声に妻泣いた 新作歌舞伎「あらしのよるに」に出演

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 オオカミとヤギの友情を描く人気絵本が原作の新作歌舞伎「あらしのよるに」が11月、博多座で九州初上演されます。オオカミの「がぶ」役は、同作のテレビや映画でナレーションや声優を務めた中村獅童さん。かねて歌舞伎での上演を熱望していました。昨年、初期の肺腺がんで休養から復帰を果たし、ある思いが強くなったそうです。

 -嵐の夜に暗闇の小屋の中で、お互い相手の姿を知らないまま語り合い、その後も友情を育む物語「あらしのよるに」。歌舞伎としては初めてずくめだそうですね。

 ★獅童 現代の絵本が歌舞伎になること、役者全員が動物役で、人間が一人も登場しないことですね。衣装が重くて暑い中、ずっと動き回るので、公演後は体重が1・5キロやせます。2015年に京都、16年に東京で上演されました。

 -なぜ歌舞伎の舞台にしようと思ったんですか。

 ★獅童 尾上松也さんが演じるヤギの「めい」がエサに見えて、食べたくなるオオカミの心の声を義太夫が語ったり、めいの性別を明確にせずに演じたり。歌舞伎独特の手法が、作品の世界観にぴったりでした。友情や恋愛だけではなく、戦争や差別などの社会問題に当てはめることができ、違いを乗り越える姿を、より表現できると思ったからです。

 -デジタルの最新技術を駆使した作品に挑戦してきましたが、本作は古典的にこだわっていますね。

 ★獅童 ページをめくる絵本ってアナログじゃないですか。映像に頼ると分かりやすいけど、想像力が広がらない。メルヘンな世界で、大人になると忘れてしまいがちな普遍的なテーマは、歌舞伎と共通するところがあり、中でも古典がぴったりです。

 -一番好きなシーンは。

 ★獅童 「自分を信じて自分らしく生きる」という思いを語るシーンです。この言葉は僕の役者人生と重なります。夢や希望を持ちながら、先の見えないゴールに向かって突き進んでいく。今作の根底にあるテーマ「信じる力」が、心に強く響きました。

 -昨年、肺腺がんが発覚した時はどんな思いでしたか。

 ★獅童 昨年6月の博多座での公演を降板することになり、断腸の思いでした。ショックでしたが初期段階だったこともあり、病気を治して復帰することに集中し、半年で舞台復帰しました。

 -療養中は何をしていましたか。

 ★獅童 体力づくりを兼ねて山道を歩きました。肺の一部を切除したので、どれだけ声が出るか誰もいない場所で試していました。焦ってはいけないと思いつつ、自然と出てくるのは今まで演じた役のせりふ。手術前とほぼ同じ声量が出た時、妻は泣いていましたね。あと、古い映画をたくさん見ました。

 -いつ頃の映画ですか。

 ★獅童 幼い頃、父と一緒に見た映画などです。その帰りに外食した思い出が、鮮明によみがえるんです。幼少期の経験ってすごく大事ですよね。今作も絵本が原作で、親子など幅広い世代に共感してもらい、家族の思い出づくりに役立てればと願います。

 -獅童さん自身も、幼少期の経験が今に生かされていますか。

 ★獅童 大衆演劇や映画などによく連れてってもらいました。“表現”にはジャンル関係なく共通するものがあると教えたかったんでしょう。今は責任のある役柄を頂くようになり、「中村獅童」の作品を形にしていかないといけません。伝統を守りつつ革新を追求する姿勢は、幼少期に培われたものです。

 -九州国立博物館(福岡県太宰府市)で開催中の「オークラコレクション」では、作品を紹介する音声ガイドのナビゲーターを務めています。

 ★獅童 音声ガイドの役割は、主役である作品の魅力を的確に伝えることです。横山大観の大作「夜桜」(11月6日~12月9日展示)は、日本ならではの風情を感じます。今は町並みも近代化して四季が分かりにくくなってますから。より作品を楽しんでもらえるよう、心を込めました。

 ▼なかむら・しどう 1972年生まれ、東京都出身。81年、二代目中村獅童を名乗り歌舞伎座で初舞台。歌舞伎の三大名作の一つ「義経千本桜」のいがみの権太などの大役を務める一方、最新デジタル技術を駆使して映像の初音ミクと共演した。映画「ピンポン」「いま、会いにゆきます」などにも出演。屋号は萬屋。

=2018/10/13付 西日本新聞朝刊=

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