リアルな感覚共有して 映画「ファースト・マン」監督 デイミアン・チャゼルさん

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 アポロ11号の月面着陸から半世紀。人類で初めて月に降り立った宇宙飛行士ニール・アームストロングの苦闘を描いた映画「ファースト・マン」が8日、公開されました。メガフォンを取ったデイミアン・チャゼル監督は、前作「ラ・ラ・ランド」(2016年)で史上最年少となる32歳でのアカデミー賞監督賞に輝きました。気鋭の監督が新作で追求したのは「リアルさ」だったそうです。

 -大ヒットした「ラ・ラ・ランド」で主演したライアン・ゴズリングさんが再び主役ですね。

 ★チャゼル 彼しか思い付かなかった。まず髪や目の色など外見的な共通点がある。またライアンはセリフがなくても多くのことを伝えられる役者。ニールのような寡黙な男を演じるには、沈黙での表現が必要だった。彼のレベルでそれができる役者はアメリカにはおそらくいないんです。

 -原作は実際にニールに取材した歴史学者による伝記です。初めて読んだ時の印象は。

 ★チャゼル アメリカではみんなが小さい時からニールについて聞かされる。それほど有名だけれども意外に知らないことが多くて驚いた。例えば、彼が子どもを失ったことや、宇宙飛行士として死に直面する場面がかなりあったこと。多分1960年代の米航空宇宙局(NASA)の歴史はオブラートに包まれている。振り返ると成功が最初から決まっていたように感じるけど、そうではないんです。

 -前々作「セッション」とも「ラ・ラ・ランド」とも雰囲気が違いますね。

 ★チャゼル ゴールを追求する中でどれだけ代償を払うのかというテーマは全ての作品で共通しています。月面着陸ほど大きなゴールはないでしょ。ただ、最初はそのゴールに重きを置こうとしていたけど変わっていった。彼を月に駆りたてたものの中には悲しみや喪失もあった。家族との関係性を伝えたいという気持ちが大きくなっていったんです。

 -宇宙を描く難しさは?

 ★チャゼル 宇宙に行ったこともないし、発射も見たことがない。僕は60年代には生まれてもいない。描こうとしていることに距離があるように感じていてプレッシャーがありました。だからこそリアルである必要を感じてましたから、ニールの妻、子ども、同僚にもたくさん話を聞きました。

 -アポロ計画など宇宙飛行がテーマの映画は過去にもあります。

 ★チャゼル 壮大なスケールの宇宙を描くことは多いけどドキュメンタリータッチ、閉塞(へいそく)感のある描き方はないと思う。当時のカプセル、コックピットを実際に見ると、ひつぎかと思うほど小さかった。宇宙船まで歩いて行き、押し込められ、ドアが閉まるのが見える。カウントダウンが始まってごう音とともに発射されると、窓の風景が白から青、黒に変わる。そして急に無重力になる。打ち上げでの外からの視点がないし、主観的な体験を共有できる。リアルな感覚を観客に与えたかった。また、合成、CGなどは極力排除した。手で触れられるような実際の臨場感、リアル感を出したかったし、宇宙の未来感ではなくアナログ感を意識した。

 -米国でも月探査計画が再浮上するなど、今も月への希求は衰えていません。人はなぜ月を目指すと思いますか。

 ★チャゼル それは映画を作りながらすごく考えた。月は夜も昼もわれわれの頭の上に存在する。アポロ計画より前から人類にとって神話的な場所として顔を出していたし、愛や死を象徴していた。それこそ(映画創成期に活躍した監督)ジョルジュ・メリエスも「月世界旅行」を撮っている。月はイマジネーションを喚起する存在なのだと思う。加えて、この1世紀で月に対する見方が変わったのも面白い。SFやファンタジーの中の存在だったのが、科学的で現実的なものになった。その転換にもとても興味があったし、そのプロセスを映画にしたいという思いもあった。

 -月、行きたいですか?

 ★チャゼル うーん、正直分からない。危険があって、居心地の良い体験でもないことをこの映画でより知ることになったから。以前よりもちゅうちょする気持ちが大きくなったかもしれません。

 ▼デイミアン・チャゼル 1985年、米国生まれ。ジャズドラマーを目指す青年の葛藤を描いた「セッション」(2014年)で米アカデミー賞3部門を受賞し、頭角を現す。女優とジャズピアニストの恋愛がテーマの「ラ・ラ・ランド」(16年)では同賞13部門にノミネートされ、監督賞を含む6部門を受賞した。

=2019/02/09付 西日本新聞朝刊=

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