自分を鼓舞 もう一度立ち上がろう 新譜「Stray Dogs」発表 シンガー・ソングライター 七尾旅人さん

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 シンガー・ソングライターの七尾旅人さんがアルバム「Stray Dogs」を出しました。社会的メッセージがにじむ作品が続いていた七尾さんですが、新作はパーソナルな歌詞とポップな曲調が印象的です。デビュー20周年を迎えた七尾さんに、曲に込めた思いを聞きました。

 -2012年のアルバム「リトルメロディ」は、東日本大震災以降の日本がテーマ。映像アルバム「兵士A」(16年)では、安全保障関連法への疑義を示しました。今作は少し毛色が違いますね。

 ★七尾 その2作に取り組んでいる間、ポップソングがたまってたんです。本来の形に立ち返って、単純にお客さんに楽しんでもらえるようなアルバムを作りたかった。今までは外へ開こうとしていた。今回は自分の心の中にある言葉だけを使った。パーソナルな色彩が強いし、素朴な意味でのシンガー・ソングライターらしさが出ていると思います。

 -ポップですが、重い歌詞もあります。

 ★七尾 レコーディングを始めた矢先に身近で大切な人が自死してしまって。それで半年くらい作業も止まった。ただ、もともと明るい方向にかじを切ろうと思っていたし、重苦しい方向に進むのはその人にとっても本意ではないと思って再開しました。そのきっかけの一つが「天まで飛ばそ」(11曲目)です。

 -曲はNHKの「みんなのうた」にも取り上げられましたね。

 ★七尾 田舎の祖母にも届くかもしれないのでうれしかったです。童謡のようなものも大好きだったし、「いつか僕の歌が」とも思っていました。

 -ほかにも弾き語りがメーンの曲やジャズ、打ち込みの曲など音楽も多彩です。

 ★七尾 ギターだけでなく、打ち込みもできるだけ自分でやりました。今作は、大事な人にささげる内容だったので自分でやる領域を広げたかった。

 -意識した音楽はあります?

 ★七尾 誰々っぽくというのは好きじゃないけど「きみはうつくしい」(9曲目)はスティービー・ワンダーの「涙のかたすみで」を意識しました。曲調と言うよりブラックミュージックの中にあるソウルの部分ですね。さまざまな境遇で苦しみを抱えた人たちが自分を鼓舞してもう一度立ち上がれるような。そういうものを自分も非力なりに作りたかった。

 -タイトルを和訳すると「はぐれ犬」。込めた思いは。

 ★七尾 僕は2匹の犬を飼っているけど、犬って人間と似てすごく社会的な動物で仲間、家族に強い愛情を持つ。だからこそ1匹はぐれている犬には独特の物悲しさがあるんです。今回自死した大事な人のことを考えると、人間も皆はぐれ犬みたいと思った。一方音楽でいえば、孤立した音がハーモニー、リズムのような形で結び合う。そんなことを考えているとタイトルが浮かんだんです。

 -全体を聴き進めると、影がありながら光もあるというか、変化、希望も感じました。

 ★七尾 そういう構成になっています。命に対して考え詰めて作ったので、生命力があるアルバムになった。聴いた人からは「元気が出た」との感想があった。楽しくて、希望のあるアルバムとして受け止められているのがうれしかったですね。

 -この20年を振り返って?

 ★七尾 20年前に考えていたのとは全く違うミュージシャンになっていますね。高知から上京した時にはサザン(オールスターズ)やミスチル(Mr.Children)みたいに日本中のみんなに愛されるようなポップスを作りたいと思っていた。でもデビューしたらそうはいかない。オルタナティブなシーンを切り開いたと評価されることもあるけれど、ある意味はぐれていただけ。居心地の良いポジションが見つからず、作品ごとにゼロから何を作るべきか悩んできた。それで良かったと思う。自分の歌がいろいろな人に聴かれる日が来たらうれしいなといまだに思っているので、頑張って良い歌を作っていきたいです。

 -3月は福岡市でライブです。

 ★七尾 弾き語りの曲では一生懸命耳を澄ませてくれるし、アップ目の曲では盛り上がってくれる。気質なのかな、福岡のお客さんは優しくてノリが良いです。

 ▼ななお・たびと 1979年、高知県生まれ。98年にデビュー後、「リトルメロディ」「兵士A」などの作品を発表。新作ツアーの福岡公演は、3月16日午後1時半、福岡市中央区の「電気ビルみらいホール」で開催。チケットは全席指定4500円。問い合わせはBEA=092(712)4221。

=2019/02/16付 西日本新聞朝刊=

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