ロングセラー『ぼのぼの』の著者、いがらしみきお初のエッセイ本

花火の音だけ聞きながら
花火の音だけ聞きながら
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 『ネ暗トピア』『さばおり劇場』などでギャグ漫画界にトルネード級の旋風をおこしたかと思えば、前代未聞の哲学的動物ファンタジー『ぼのぼの』で読者の度肝を抜いたいがらしみきお。近年は『かむろば村へ』『I(アイ)』などで我々に天上の輝きと地獄の闇を教えてくれた無類の表現者ともいえる。本作は、WEBマガジン「カラフル」誌上において、2014年10月25日から2017年3月27日まで30回にわたり連載したエッセイをまとめたもので、著者の初のエッセイ本となる。

 内容は著者の日常がメインである。硬軟とりまぜたテキストは、まるで著者がそばで語りかけてくれているかのような不思議な風合いで、読者を魅了してやまない。表現者として漫画だけでなく”言葉”を大切にする著者だからこその筆致も絶妙である。

 著書が”言葉”を大切にしていると感じられる箇所は随所にみられる。例えば第2回「母はいつまで母だったのか」では、「我々は我々が思う以上に言葉で出来ている」と述べられており、第4回「人が黙り込む時」では、「我々は自分と他人の位置と形を言葉で測りながら生きている。(中略)私は言葉を信じ続けられる人間ではないし、言葉の魔法は必ず解ける時がある」と述べている。

 語りの中にハッとさせられる表現も頻出する。「政治は勝ち負けのためにあるものではなく、引き分けのためにあるもの」と言い切る人物はそうそういないだろう。こうした表現は、本作と出会うタイミング、読むタイミングや年齢によって響く箇所が違ってくることだろう。何度読んでも味わい深い作品である。

 作中によく「ディスる」という言葉が登場する。この言葉は英語のディスリスペクトからきており、尊敬を意味するリスペクトの反対語にあたる。つまり著者は、さまざまな事象を揶揄したり批判したりしていることになる。ただ、そこに悪意は微塵も感じない。著者自身は「ディスる」と言うが、人や物事を客観的に眺めながら、それらを敬う姿勢がうかがえる。

 サイン会ではサインだけではなくファンが好きなキャラクターのイラストを描いたり、一緒に写真撮影をしたりするそうだ。その飾らない人柄こそ、いがらしみきおの魅力なのだろう。


出版社:双葉社
書名:花火の音だけ聞きながら
著者名:いがらしみきお
定価(税込):1,296円
税別価格:1,200円
リンク先:http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31279-9.html


西日本新聞 読書案内編集部

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