濃密な人間ドラマを描く、恋愛裁判だけを集めた異色の裁判傍聴記

【朝日文庫】恋の法廷式 北尾トロ著
【朝日文庫】恋の法廷式 北尾トロ著
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 著名人の犯罪や、社会的影響が大きな事件があるたびに話題となる裁判傍聴。弁護士ドラマやゲームの世界をリアルに知ることができ、好奇心をも満たされるので、ネット上で「傍聴したい」などの声が上がっている。芸能人の裁判は確かに興味深いものがある。だが、裁判傍聴の醍醐味は、名もない市井の人々の隠れたドラマを垣間見るところにある。法廷にはメディアで取り沙汰されないたくさんのドラマが存在するのだ。

 裁判傍聴記の第一人者、北尾トロ氏が、恋愛感情が事件の要因となる『恋愛事件』だけを集めたものが本作、『恋の法廷式』。「週刊朝日」と「法学セミナー」で連載したコラムをまとめた文庫オリジナル作品である。的外れな片思い、幸せをつかむ手法が行き過ぎた風俗嬢、ドロドロ不倫の後遺症など、さまざまな『恋愛事件』を垣間見ることができる。張り詰めた空気が漂うであろう法廷の様子が、身近に感じられるように描かれているのは、自身を傍聴マニアと称する著者の言葉選びによるものであることはもちろん、著者による被告人の言葉を引用した愉快なイラストが添えられているからだろう。

 裁判員裁判制度が開始される前後から、裁判所に足を運ぶ一般人が増えてきたと著者は述べている。「傍聴デート」なるものも存在する。現在進行形の恋人同士が真剣に聞き込む傍聴は得るところの多いものだろう。ひとつの事件を男と女の側から多元的な解釈ができることに価値がある。あらゆる裁判は原則として公開され、誰でも気軽に裁判傍聴ができる。公判の記録を取りたい場合はメモ帳と筆記用具を持ち込んでもかまわない。

 人が人を好きになるかぎり、『恋愛事件』はなくならない。恋愛事件に限らず、人の感情が絡む事件は決して他人事ではない。理性が感情をコントロールしているだけで、一歩間違えれば自分が被告席に立つこともあり得るのだ。本作を手に取る読者であれば、著者の意図するところがわかるだろう。量刑を決めることだけが裁判のみどころではないはずだ、と。


出版社:朝日新聞出版
書名:【朝日文庫】恋の法廷式
著者名:北尾トロ
定価(税込):734円
税別価格:680円
リンク先:http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=19258


西日本新聞 読書案内編集部

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