大人気ミステリー作家が放つ、失われた記憶をめぐる極上のホラー小説

『ダイイング・アイ』東野圭吾著
『ダイイング・アイ』東野圭吾著
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 小泉八雲の『怪談』の中に、こんな話がある。罪を犯した使用人が、処刑寸前になって主人を「私を殺すならお前たちを呪ってやる」と脅す。主人が「それなら、首を落とされても目の前の石にかじりつき、お前の恨みのほどを見せてみよ」と挑発したところ、首を落とされた瞬間、罪人の生首が飛び、石にしっかりとかじりついた……という内容だ。それほど命を奪われた人間の恨みや執念というのは深く、強烈で、逃れがたい。

 本書の主人公・雨村慎介は、勤め先のバーで客に殺されかける。犯人はかつて慎介が起こした交通事故の被害者の夫で、人形職人の男。襲われた時のショックで事故についての記憶がすっぽり抜け落ちた慎介は、自らの過去を調べ始める。しかし、過去を知ろうとする慎介に対して、恋人の成美や前の職場のオーナー・江島は不審な動きを見せるのだった。周囲が止めるのも聞かず、片っぱしから手掛かりに当たっていく慎介だったが、そんな折、成美が行方不明になる……。

 女性一人の命を奪った人身事故の真相とは? また、慎介の前に現れ、彼を翻弄する謎の美女・瑠璃子の正体とは? 「失った記憶」と「死んだはずの女」をキーワードに、目まぐるしくストーリーが展開していくのが本書の特徴だ。ラストに向かって物語が収束していく驚きと快感は、さすがミステリーの巨匠というべきだろう。

 『ダイイング・アイ』を読了した時、「東野圭吾氏の作品なのだから本格推理小説に違いない」という思い込みを逆手に取られたような気がした。東野氏の作品はどれも見事なまでの伏線と、緻密で大胆な構成に満ちたロジカルなものだ。しかし、本書はミステリーやサスペンスというより、極上のホラーと呼んだ方が正しい。暗闇から不意に白い手が伸びてくるように、推理小説だと思って読むと、急に足をすくわれるような“恐怖”がひょいと顔をのぞかせる。

 慎介を誘惑し、追い詰める瑠璃子の悩ましくおぞましい姿。なじみの刑事とともに彼女の魔の手から逃亡を試みる緊迫感。そしてショッキングすぎる結末。どれもこれも、ミステリーと呼ぶにはあまりに突飛で、サスペンスと呼ぶにはあまりにおどろおどろしい。読んだ後、誰かに見つめられているような気がしたら、あなたはもう著者の手中に落ちている。


出版社:光文社
書名:ダイイング・アイ
著者名:東野圭吾
定価(税込):720円
税別価格:667円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334748968

 西日本新聞 読書案内編集部

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