知性とユーモアたっぷり! 笑って泣ける母と娘のヒューマンストーリー

『さよなら、田中さん』鈴木るりか著
『さよなら、田中さん』鈴木るりか著
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 スーパー中学生鈴木るりか先生のデビュー作。
主人公である花ちゃんこと田中花実は小学6年生。ビンボーな母子家庭だけれど、底抜けに明るいお母さんと、毎日大笑い、大食らいで過ごしている。そんな花ちゃんとお母さんを中心とした日常の大事件やささいな出来事を、時に可笑しく、時にはホロッと泣かせる筆致で描ききる本作。

 友人とお父さんのほろ苦い交流を描く「いつかどこかで」、お母さんの再婚劇に奔走する花実の姿が切ない「花も実もある」、著者が小学4年生時の初受賞作を大幅改稿した「Dランドは遠い」、田中母娘らしい七五三の思い出を綴った「銀杏拾い」、中学受験と、そこにまつわる現代の毒親を子どもの目線で描いた「さよなら、田中さん」の全5編が収録されている。各編花実の一人称で物語が進むが、表題作のみ、教育熱心な母親に悩む花実の男友達、三上信也の一人称で書かれている。

 著者が現役中学生ということにスポットライトが当たりがちだが、本書の真の魅力はそこではない。確かにみずみずしい感性といった点でそうかもしれないが、中学生とは思えない洞察力と想像力には目を見張るものがある。

 「もし死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ」

 表題作にて花実のお母さんが、三上少年に投げかける言葉が印象に残る。複雑な現代社会において、生きることの大切さとシンプルさにはっとさせられる。中学生がどのように生きたらこの言葉を紡げるのだろうか。子どもから大人までぜひ多くの人に読んでもらいたい作品だ。

 本の世界に自然に引き込まれ、一緒に笑ったり、じんわり涙したり。気づけば読み終わってしまっていたという読者も多いのではないだろうか。貧乏な母子家庭という設定だが卑屈さはなく、カラッとした爽やかな読後感がある。花実の成長を綴る続編や、お母さんのスピンオフも期待したいところ。今後が楽しみな作家の一人だ。


出版社:小学館
書名:さよなら、田中さん
著者名 鈴木るりか
定価(税込):1,296円
税別価格:1,200円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386484

 西日本新聞 読書案内編集部

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