「寂しいけど人付き合いは嫌!」ワガママな自分を許す愉快・痛快コラム集

『やらない理由』カレー沢薫著
『やらない理由』カレー沢薫著
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 とかくこの世では前向きさや向上心というものがもてはやされる。雑誌では「美」だの「自分磨き」だのといったまぶしい言葉がリオのカーニバル並みに乱舞し、「仕事が上手くいかない」などと愚痴ろうものなら「ピンチはチャンスだよ!」とやたらキラキラした目をした「キラキラ女子」から、キラキラした言い方で明後日の方向へボールを打ち返される。もはや「頑張ろうハラスメント」、略して「ガンハラ」ではないだろうか。

 そんな「ガンハラ」に悩まされ、「私ってワガママでダメな人間なのでは?」と自分を責めがちな人に力強くお勧めしたいのが本書だ。

 本書は、OL兼漫画家・コラムニストで痛快な語り口とポップなたとえが魅力のカレー沢薫氏が、さまざまな「怠惰な悩み」を肯定するコラム集。著者が「寝言」と呼ぶテーマは多岐にわたり、「やせたいが、食べるのを我慢するのは嫌」「寂しがり屋だが、人付き合いは嫌」「SNSに『いいね』してほしいが、『いいね』するのは嫌」「結婚したいが、縛られるのは嫌」などなど、率直に言えばなんとも都合のいいものばかりだ。テーマを見ただけで「けしからん!」と大層お怒りになる生真面目な方もおられることだろう。

 しかし口には出さないだけで、思い当たる節がある人は多いのではないだろうか。実際、筆者はかぶりつきで読んでしまった。筆者が清廉潔白でもなければ志及び徳の高い人間でないことを差し引いても、皆、どこかにこんなジレンマを抱えているように思える。

 たとえば、「話は聞いてもらいたいが、あれこれ言われるのは嫌」というテーマ。これに対して、著者は「壁や岩のような話を黙って聞いてくれるクールな物体に囲まれているのに、なぜあれこれ言ってくる可能性のあるブヨブヨした物体に話しかけてしまうのか。それは肯定がほしいからだ」とした上で、「相手は自分の話をそこまで真剣に聞いていないのだから、否定が返されようが肯定が返されようが結構どうでもいいこと」「なぜどうでもいい反応が返ってくるかというと、自分もどうでもいい話をしているから」と述べている。

 どうだろう。何だか胸がスッとするのではないだろうか。

 自分で自分の怠惰さを認め、肯定できる人間は霊長類最強だ。言いたいことが言えない世の中だからこそ、「自分はしょうもない人間だ」と自己否定の連鎖に陥る前に、本書でその連鎖を断ち切っていただきたい。


出版社:マガジンハウス
書名:やらない理由
著者名 カレー沢薫
定価(税込):1,188円
税別価格:1,100円
リンク先:https://magazineworld.jp/books/paper/2970/

 西日本新聞 読書案内編集部

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