幕末維新の動乱期、日本を近代化に導いた佐賀藩主、鍋島直正の生涯。

『かちがらす』植松三十里著
『かちがらす』植松三十里著
写真を見る

 かつて「薩長土肥」と呼ばれ明治維新を推進した4つの藩、薩摩藩、長州藩、土佐藩、肥前藩があった。本書は幕末の動乱期、冷静沈着に時勢を見定めた賢人、肥前国佐賀藩主・鍋島直正の生涯を描いた歴史小説である。

 若干17歳で家督を継ぎ藩主となった直正。当時の佐賀藩は長崎警備の負担や直正の父、斉直の贅沢、台風の甚大な被害もあり財政難に苦しんでいた。倹約令を出すも、斉直も重臣たちも真剣に取り組もうとしない。さらに国入りの5年後に城の火事に遭う。これを機に藩主としての覚悟を決め藩政改革に乗り出していく。

 直正が藩政改革と並行して進めたのが技術革新だ。日本を欧米列強の従属国にさせないために、反射炉の建設、鉄の鋳造、大砲の製造、蒸気船の建造といった事業に藩をあげて挑んだ。直正の端倪すべからざるゆえんは、圧倒的技術力と軍事力を保有しながら安易に薩長と連合しなかった点にある。尊皇攘夷派と公武合体派のいずれとも手を組まずに時勢の流れからも一線を画していた。腹が見えぬことから「肥前の妖怪」「佐賀の日和見」ともいわれる。

 幕末当時、中国が阿片戦争に負け、インドや東南アジアの国々が西洋の植民地になっていた。日本もその瀬戸際にいたことは誰もが知るところだろう。結果として日本は独立を保つことができた。しかし、その史実に危機感を覚える日本人はどのくらいいるだろうか。どこか遠い世界のことのように感じていないだろうか。直正は諸国に対して明確な危機感を持っていた。真に日本を憂え、日本を守るために技術戦争に踏み出した人物といえる。

 歴史は見る角度により評価が異なるものだ。「佐賀の日和見」といわれる直正だが、日本が近代化していく中で極めて大きな役割を果たしていくことになったことが本書を通じてよくわかる。著者が表す直正の人情深さも魅力的だ。日本は2018年に明治維新150年を迎える。幕末維新というと薩長に注目が集まりがちだが、本書を機会にぜひ明治維新の礎を築いた佐賀の魅力に触れていただきたい。


出版社:小学館
書名:かちがらす
著者名:植松三十里
定価(税込):1,890円
税別価格:1,750円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386493

 読書案内編集部

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]