人と人、心のつながりに心温まるホラーファンタジー

『あの世とこの世を季節は巡る』沢村 鐵著
『あの世とこの世を季節は巡る』沢村 鐵著
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 この世ならぬ存在と話ができる謎の青年・日下慎治が怪異に悩む人々のところへふらりと現れ、奇妙な事件を解決していく。

 人気のないプール。いつもと違う電車。使われていない教室。地下駐車場――街の片隅にあるあの世とこの世の「境界」に棲むあやかしたちに寄り添い、話を聞き、そしていつのまにか去っていく。第1話「水の中の黒」は、夏。第2話「山手六道輪廻線」は秋。第3話「漣の彼方」は冬。第4話「オール・オールライト」は、春。エピローグは晩春と、四つの物語と一つのエピローグで、季節を巡る。

 池袋から山手線に乗ったはずの中学生、祐仁に、悪魔と名乗る少年がどこにでもいるいたずらっ子のように言う。「ようこそ、六道輪廻線へ!」と。次々と止まる駅で祐仁が目にしたのは変わり果てた街と人の姿。山手線が異界と化す第2話「山手六道輪廻線」では、仏教の宗教観、六道が分かりやすく描かれている。

 ジャンルはホラーだが、派手でわかりやすい見せ場があるのではなく、情緒がにじむ街を舞台とした群像劇という印象が強い。それぞれの物語の主人公は幽霊だったり特殊能力を持つ子どもだったり、彼・彼女たちが現世の人たちを怖がらせることが主軸となっているため、慎治の目立たなさが、逆に作品を読みやすくさせている。中高生から大人まで幅広い世代に支持されるであろう1冊。一話完結なので、通勤や通学時間の読書タイムにおすすめだ。

 実は慎治の登場は本作が初ではない。2011年に刊行された『十方暮の町』にも登場している。前作で慎治を知った読者はもちろん、本作で彼に出会うのが初めての人も楽しめる作品となっている。読後には慎治のやさしさが心に残る一方、読めば読むほど、慎治がなぜこのような生き方をしているのかが気になる。慎治の過去は前作に引き続き謎に包まれたままであるため、シリーズ化を望む声も多い。本作はプロローグとしての位置づけということなので、続編を期待したい。


出版社:潮出版社
書名:あの世とこの世を季節は巡る
著者名:沢村 鐵
定価(税込):650円
税別価格:602円
リンク先:http://www.usio.co.jp/html/books/shosai.php?book_cd=4197

 西日本新聞 読書案内編集部

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