他人に愛されようとするあまり自分らしさを見失った人への脳科学的アドバイス

『前向きに生きるなんて ばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本』黒川伊保子著
『前向きに生きるなんて ばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本』黒川伊保子著
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 近い将来、人工知能(AI)が人間を超えるといった話題を目にする機会が増えた。そんなことはありえないと主張する人もいる。いずれにせよ、そこで問題となってくるのは、AIやロボットと人間との境界線である。人間らしさ、あるいは、もっと突っ込んで、自分らしさとはいったいなんだろうか。

 人間の世界で憧れられている個性的な人物について考えてみよう。たとえば、コンピュータに革命を起こしたスティーブ・ジョブス。彼が伝説の一体型コンピュータ『アップルⅡ』を作り出したのは、それまでのコンピュータの醜い配線だらけの姿が許せなかったからだ。また、モード界の革命児ココ・シャネルは世界中にミニスカートブームが到来したとき、「大人の膝は汚い」とシャネル・スーツを生み出し、これがエレガンス・スタイルの定番となった。この2人には共通点がある。それは「崇拝を集めたものの、いわゆる愛されキャラとはほど遠い」ということだ。

 「人は、愛されるか、憧れられるか、そのいずれかを選択せざるをえない。人間の脳の構造上、どちらもは追えないのである」

 以上は、本書の「嫌悪することを決めなければならない」からの引用だ。著者はAIの研究開発に従事したのち、脳機能論と組み合わせたマーケティング手法で新境地を開拓した人物である。その語り口は軽妙で、身近な題材を例に話を進めて飽きさせない。テレビ番組や有名人の話題も出てくるが、それ以上に冒頭で紹介されている「向上心の塊のような友人」の話がおもしろい。

 その友人は、どうにも視野角が狭くて、いろいろなものを見逃すので、「コンタクトの度数が合ってないんじゃないの?」とアドバイスした。友人は「そんなことないですよ。1・5以上見えるように、最高の度にしてもらってるんですから」と息巻く。

 「え、それって、見えすぎ。そんな見えたら、空間を俯瞰できないから、空間把握力が下がってしまう。道が覚えられないのは、そのせいじゃない?」

 そうして、半ば強制的に度数を変えさせたところ、「あんなに道に迷い、ものをなくしていた人」が空間を把握し、数学に興味をもちはじめ、肩こりもすっかり治ったのだという。

 本書は主に、愛されようとするあまり他人の意見にふりまわされてしまいがちな人に向けて書かれている。そうした人が読めば、この「友人」のように新しい視界が得られる内容となっている。"


出版社:マガジンハウス
書名:前向きに生きるなんて ばかばかしい 脳科学で心のコリをほぐす本
著者名:黒川伊保子
定価(税込):1,296円
税別価格:1,200円
リンク先:https://magazineworld.jp/books/paper/2986/

 西日本新聞 読書案内編集部 

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