ただの境界線ではない「県境」の味わい深さを教えてくれる!

『ふしぎな県境』西村まさゆき著
『ふしぎな県境』西村まさゆき著
写真を見る

 多くの人にとって、都道府県の境界線、つまり「県境」を意識するのはどんなときだろう。高速道路のドライブ中や山道の峠越えなどでカーナビが「〇〇県に入りました」と教えてくれるときぐらいだろうか。それでも、県境をまたぐ瞬間には、何ともいえないわくわく感があるのも、また事実だ。

 このようなわくわく感の極致を味わうため日本中の「県境」を歩きまわる「県境マニア」。そうした「県境マニア」の第一人者である著者が、13章にわたりカラー写真や地図を交えて「ふしぎな県境」を案内してくれるのが本書である。そのうちのいくつかを紹介するが、あえて県名(地名)は伏せておくので、実際の場所は本書で確かめてほしい。

 最初は「盲腸県境」だ。本格的な登山をしなければたどり着けない難所ではあるが、「幅1メートル、長さ8キロ」にわたって続く盲腸のような県境である。A県とC県の間に、幅1メートルのB県が盲腸のように細長く入り込んでいる。それも標高2000メートルの山の中である。このような県境ができたのは、山岳信仰のゆえだという。また、別の地域であるが、戦国時代の国盗りになぞらえて、山中の峠で「峠の国盗り綱引き合戦」というイベントを開催している「県境」がある。綱引きの勝負に勝った県の「領土」が増えるように県境をずらす「国盗り」の戦いだ(あくまでイベントであり、実際に県境が変わることはない)。ここも、このイベントのために麓の鉄道駅から運行されるシャトルバスしか交通の便がないという、かなりの山の中だ。

 もちろん、都会にも「ふしぎな県境」はたくさんある。自動車で走るとたった4キロの間に11回もカーナビが県境通過を知らせてくるという、入り組んだ県境がある。ここは県境となっている蛇行した河川を直線に改修したために、県境だけが蛇行したまま残ったのだ。また、宅地開発や大規模なショッピングモールの開発などで、住宅地やショッピングモールの真ん中で県境をまたぐことができる所もある。

 人為的に定められた「県境」だからこそ、歴史的、地理的な条件はもちろん、背後にいろいろな事情を垣間見ることができる。これが「ただの境界線」ではすまない「県境」のおもしろさなのだ。本格的な登山は無理にしても、本書に導かれて「ふしぎな県境」を訪れてみると、机上では分からない発見があるかもしれない。


出版社:中央公論新社
書名:ふしぎな県境
著者名:西村まさゆき
定価(税込):1080円
税別価格:1000円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/shinsho/2018/05/102487.html

 西日本新聞 読書案内編集部

 

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]