友人への想いを抱きながら満天の星空を求めて北部インドの高地を歩く

『ラダックの星』中村安希著
『ラダックの星』中村安希著
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 この紀行ノンフィクションの舞台は標高4000メートルを超す高山地帯である。荒涼とした大地、目の前に立ちはだかる峻険な山岳、そして漆黒の夜空に広がる満天の星。北部インド、カラコルム山脈とヒマラヤ山脈にはさまれた秘境ラダック地方の景色は、想像を絶するものばかりで、その迫力には目もくらむばかりだ。旅のなかで著者が出会うさまざまな経験に読者はハラハラし、同時に興奮でドキドキと胸が高鳴る。

 著者はこれまでも何冊かの紀行ノンフィクションをものにしてきた旅のエキスパートである。しかし、この旅はいつもの旅と異なるのだ。著者がこの旅に求めているものは、人との出会いでもなく、おもしろい経験でもない。ただただ、この高原の地で新月の夜の星を見ることだけが目的なのである。そのために重い荷物を背負い、秋の入口の寒さに耐えながら、ひたすら歩いて行く旅である。

 月が空から消える新月の夜を標高4700メートルの高地、ニマリンで迎えるべくスケジュールを組み、ひたすら歩く。本書のカバーにはラダックの星空の写真が採用されているのだが、山岳の稜線から天の川が立ちのぼる煙のように写っているのが衝撃的である。

 この作品には、星空を求める旅のほかにもうひとつのストーリーがある。それは著者の友人への想いである。この友人「ミヅキ」は、英語が得意な帰国子女。著者の出身地でもある閉鎖的な田舎町で出会う。小学生から中学・高校へと進み、それぞれ違う大学へ進学し、それぞれ違う人生を歩みはじめる。この間、いつも一緒にいるという間柄というよりは、つかず離れずのふしぎな距離感をもった友人関係なのだ。ある日、旅からもどった著者のもとに、「ミヅキ」の両親からメールが届く。

 クライマックスはストック・カンリ山(標高6153メートル)の登山である。最初の予定にはなかったこの登山、薄い空気に息を切らし、手指を凍傷で失う恐怖と戦いながら、頂上を目指す。その間、絶え間なく「ミヅキ」との交流の日々が脳裏に浮かぶ。そして、山頂に立ったとき、著者が眼にしたものは…。

 本書はノンフィクションでありながら私小説のような独特の味わいをもつ。秘境の旅の魅力と、友人との青春の歩みを織り交ぜて、一気に読ませる好著である。


出版社:潮出版社
書名:ラダックの星
著者名:中村安希
定価(税込):1,836 円
税別価格:1,700 円
リンク先:http://www.usio.co.jp/html/books/shosai.php?book_cd=4224

 西日本新聞 読書案内編集部

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