ヒラリー・クリントンが語りつくす現代アメリカの政治と社会の物語

『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』ヒラリー・ロダム・クリントン著
『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』ヒラリー・ロダム・クリントン著
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 2016年、アメリカの大統領選挙は大方の予想を覆して共和党の候補ドナルド・トランプが勝利した。一方、この選挙を戦った民主党の候補がこの本の著者、ヒラリー・ロダム・クリントンである。全6章からなる本書は、単なる「選挙の記録」ではない。
例えば、ヒラリー自身が成長するにつれて政治的関心が呼び覚まされていく過程、またそうした活動のなかで経験したジェンダー・ギャップなどの自分史としての一面も記されている。白人労働者階級の利害をめぐるトランプ候補との確執を通じて、現代アメリカの産業や社会が抱える問題点を浮き彫りにする。

 夫であり元大統領であるビル・クリントンとの出会いや家族生活、バラク・オバマ前大統領のもとで務めた国務長官時代の経験談にも紙幅が割かれる。このような一連の記述を通じて感じることは、ヒラリーが世上言われている以上に才女だということだ。微に入り細にわたる記録が本書につづられているのは当然としても、その思考の深さや緻密さは驚嘆に値する。

 様々な話題が散りばめられている中で、もっとも多くのボリュームを占めるのは、やはり大統領選挙である。これにあてられた第5章は「苛立ち」というタイトルだ。ケンタッキー州やウェストヴァージニア州などのカントリーロードで渦巻く白人労働者たちの不安や不満に、積極的に答えられなかったことがヒラリーの敗因のひとつだといわれるが、これについて冷静に振り返り分析している。

 また、公用の電子メールに私的なメールアドレスを用いていた一件や、ロシアの関与が疑われている選挙妨害、トランプ陣営によるフェイクニュースの乱発など、選挙戦の中で報じられていたさまざまな問題が、民主党の、そしてヒラリーの立場からではあるが、詳細に語られる。これを読むと、世界に影響力をもつアメリカ大統領の選挙が、壮大な権力掌握の物語として強烈に迫ってくる。

 最終章でヒラリーが指摘する現代アメリカ社会の問題は、人種や階級、政治が分断された状況にあること。そして、それを乗り越えていくためにどのようにコミュニティー間を橋渡ししていくかが問われていることである。このことは、アメリカに限らず、私たち日本人が「社会」を維持していくために考えなければならない極めて重要な問題でもある。


出版社:光文社
書名:WHAT HAPPENED 何が起きたのか?
著者名:ヒラリー・ロダム・クリントン
定価(税込):2,160円
税別価格:2,000円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334962203

 西日本新聞 読書案内編集部

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