ありふれた夏の一日に起きた惨劇をめぐる、4つの物語

『ボーダレス』誉田哲也著
『ボーダレス』誉田哲也著
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 「帰宅中の通行人に声をかけ、自宅を見せてもらう」というバラエティ番組が人気を呼んでいる。一見ごく普通な老若男女の抱える、色濃いドラマが視聴者の心をつかんでいるのだろう。名もなき人々、その誰もがそれぞれのドラマを生きている。本書を読んでいると、そんな思いがふと脳裏をよぎる。

 本書は「ジウ」シリーズや「姫川玲子」シリーズなどのベストセラーで知られる誉田哲也氏のサスペンス小説だ。小説家志望の女子高生とその級友。謎の男から逃げる盲目の少女と彼女を支える姉。音楽家への道を諦め実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との会話を拒み続ける才能あふれる妹。年上の美女と出会い、世界を変えられていく深窓の令嬢。女子高生達の平和な夏休みの一日で幕を開けた物語は、森の中で傷つきながら疾走する姉妹に視点が切り替わり、さらに喫茶店の和やかな食事風景へと流れるように変わっていく。4つのストーリーが並走し、ほんの少しずつつながりながらクライマックスで収斂(しゅうれん)する様の見事さは、まさに押しも押されもせぬ人気作家の面目躍如といったところだろう。

 誉田作品全てに言えることだが、特筆すべきなのは強烈な印象を残す女性キャラクターの存在だ。盲目であるが故に他の感覚を研ぎ澄ませ、逃避行中に怪我をした姉・芭留を勇気づける少女・圭や、音大受験に失敗し、妹・叶音から投げかけられた「お姉ちゃんの音楽は、『音が苦』って書くんじゃないの?」という手厳しい言葉に悩む琴音。

 特に琴音と叶音の関係はリアルだ。長女としての責任感から音楽好きの父の期待に応えようと奮闘し、莫大なお金を投資してもらったにもかかわらず「負け犬」として逃げ帰って来た姉と、苦しむ姉をもどかしく思いながらも上手く接することのできない妹。琴音同様、人生の目的を見失い、安らげるはずの家の中で肩身の狭い思いをしたことがある人も多いのではないだろうか。そんな彼女達の関係は、たった一日でがらりと変わってしまう。その行方はどうなるのか。そして、最後に明るみになるもう一人の”女性”の存在にもぜひ目を向けていただきたい。


出版社:光文社
書名:ボーダレス
著者名:誉田哲也
定価(税込):1,620円
税別価格:1,500円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334912345

 西日本新聞 読書案内編集部

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