いつの時代も女性を導いてくれる、確かな美意識とみずみずしい好奇心

『これからの私をつくる 29の美しいこと』光野桃著
『これからの私をつくる 29の美しいこと』光野桃著
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 著者の光野桃さんは、まだ今ほど情報を簡単に手に入れることができなかった1990年代初め、それまで「伝統あるファッションの街」程度にしか認知されていなかったイタリアの「ミラノ」を、美のお手本として世の女性たちに紹介した。独特な美意識のフィルターを通したエッセイは大人気で、まさにカリスマ的存在だった。

 元女性誌の編集者である彼女の著書には、実際にミラノに住むことで見えた、街に息づくシックでエレガントな生き方や暮らしぶりがセンス良く描かれ、あこがれのため息とともに、価値観が変わるような大きな衝撃を受けたものだ。

 あれから30年近くが経ち、著者ももう60代。本書は、「ミモレ」というミドルエイジ女性のためのウェブマガジンで1年間連載されたコラムのなかから、いま彼女自身が人生の「よりどころ」とする、「29の美しいこと」についてまとめたものである。

 第一章の「おしゃれをつくる」は、著者の真骨頂ともいえる美しい「モノ」にまつわるエッセイ。しかし、第二章「心とからだをつくる」、第三章「未来をつくる」と読み進めるうちに、正直今まで勝手に抱いていたイメージとはずいぶん違った印象を受けた。

 流れた月日と共にある人生経験は、おそらく著者からいろいろなこわばったものや沈んだものを取り去り、ただ穏やかに日々を楽しむ余裕を生み出したようだ。その審美眼はさらに冴えわたり、いやますます好奇心旺盛、興味のアンテナがより幅広くなったのだろう。素敵なひと、魅力的な場所、影響を受けた言葉などについての、さすがとうならせる感覚と優しくつづられた文章に、思わず引き込まれていく。

 内面を見つめる文章も多く、特に、子どもに対する葛藤を記した母娘関係の話や、年齢を重ねることで必要になる身体を労わる心構えについての話には、個人的にとても共感を覚えた。季節ごとの知恵が満載の「ゆる歳時記」も興味深い。

 「須賀敦子」や「saqui」「和籠」など今話題のキーワードも、彼女がけん引したのではないかというほど多くて驚く。きっといくつになっても、女性たちのインフルエンサーなのだ。

 自分だけの心のよりどころがあれば、きっと孤独は怖くない。本書はそう教えてくれる。昔からの光野ファンはもちろん、迷えるすべての世代の女性に、ぜひ手に取ってほしい美しい1冊だ。


出版社:講談社
書名:これからの私をつくる 29の美しいこと
著者名:光野 桃
定価(税込):1,296円
税別価格:1,200円
リンク先:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000312006

 西日本新聞 読書案内編集部

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