渦中の人物は何を考えながら<獄中の300日>を過ごしたのだろうか?

『許せないを許してみる 籠池のおかん「300日」本音獄中記』籠池諄子著
『許せないを許してみる 籠池のおかん「300日」本音獄中記』籠池諄子著
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 この本は<あの事件>で夫の籠池泰典さんとともに大阪地検特捜部に逮捕され、保釈も許可されずに300日にわたって勾留・拘禁されていた籠池諄子さんの「獄中記」である。大阪拘置所の独居房で弁護士以外との接見も許されず、唯一、外界との接点だったその弁護士にあてて日々つづられた手紙を日付順にならべて編まれたものである。だからストーリーがあるわけはないし、なにか一貫したテーマにもとづいて執筆されたものでもない。その意味で、雑然と文章が並んでいるだけといえば、いえなくもない。

 1日に書かれた手紙の分量もわずか数行の日もあれば、もし便せんに書かれたのなら何枚になるのだろうと思うほど長いものもある。そして、日々つづられていく手紙の内容は実にさまざまだ。いくつか、かいつまんで紹介してみよう。まず目につくのは<あの事件>ともかかわるが、権力者との関係や彼ら/彼女らへの、不信感も含めた「想い」だ。そこには首相や首相夫人、大臣(経験者)や国会議員、府知事といった面々が登場する。権力というなら、著者(とその夫)を勾留・拘禁していた司法権力も多く登場する。検察官、そして毎日接している拘置所の看守とのやりとり、それへの想いなどがときに怒りを込めてつづられる。

 もちろん、プライベートな話題も多い。逮捕・収監の日から突然に顔を合わせることができなくなった夫については、妻として、小学校設立をめざした同志としてなど、思いやる心に多くの分量が費やされる。自死を選んだ息子のこと、子育ての記憶など、5人の子どもたちへの想いもたくさん詰まっている。告白といってよいかも知れないが、本人があわや自殺という人生の一幕もふり返っている。

 300日におよぶ「獄中記」では、まだまだ多くのことが語られている。たしかに一読したところは雑然としたドキュメントなのだが、読者はここから何を読み取れるだろうか。<あの事件>の主人公として事実関係を示してくれるひとつの資料という読み方もできる。巷間、あまりよく知られていない拘置所での生活記録という側面もあるだろう。そしてもうひとつ、幼稚園経営者夫妻というさほど「特別」でもない市民が、さまざまな国家権力やマスコミという「権力」の渦の中で翻弄される「市民のドキュメンタリー」として読める、そのような側面をもったノンフィクション作品ともいえるだろう。


出版社:双葉社
書名:許せないを許してみる 籠池のおかん「300日」本音獄中記
著者名:籠池諄子
定価(税込):1,620円
税別価格:1,500円
リンク先:http://www.futabasha.co.jp/booksdb/smp/book/bookview/978-4-575-31401-4/smp.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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