不祥事続きの霞が関に活を入れる、元財務官僚の「理想の官僚論」

『役人道入門』久保田勇夫著
『役人道入門』久保田勇夫著
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 東大生の就活事情が様変わりしている。「大変な割にコスパが悪い」と、キャリア官僚を目指す学生が激減しているというのだ。それもそのはず、近年は財務省の森友学園文書改ざん問題や文科省の加計問題など、官僚の不祥事が相次いでいる。国民から冷ややかな視線が注がれる中、官僚になるのは割に合わないということだろう。

 そんな、官僚を取り巻く不甲斐ない状況に活を入れるように復刊されたのが本書『役人道入門』。著者は1966年から2000年まで大蔵省(現・財務省)の官僚として税制改正や国際金融交渉に携わり、現在は西日本シティ銀行会長を務める久保田勇夫氏だ。第一線で活躍してきた久保田氏は、「役人は公務員であることにおいてプロフェッショナルでなければならない」として、本書の中で6つの章に分けて官僚のあるべき姿を説いている。

 たとえば、第2章「交渉編」で挙げられている「首をタテに振らずナナメに下ろす」という項目。「交渉の際は『ウーン』と言いつつ、首を右上から右下へゆっくり斜めに下ろすべし」というもので、著者がかつて先輩から受けた教えだそうだ。どういうことかというと、交渉中に相槌を打つつもりで「ウン」と言ってしまうと、相手は「同意してくれた!」と勘違いしてしまう可能性があるのだという。誤解を生まないよう一挙一動に注意を払うのは、いかにも重要な交渉に携わる官僚らしい。

 筆者が一番衝撃を受けたのは、第5章「健康編」だ。通商産業省が「通常残業省」と呼ばれていたように、官僚は尋常でないほど過酷な仕事を要求される。著者は課長補佐時代、1年のうち2、3ヶ月を除いて午前1時、2時までの勤務が普通だったと振り返っている。あまりの激務とプレッシャーのため早死にしたり自殺したりする官僚も多く、著者は心のバランスを取ろうと意識的に「笑う」時間をつくったという。

 ブラック企業も顔負けの労働環境は、現在も同じだろう。「前述した「『笑い』をつくる」という項目を読んで、筆者は金融庁勤めの知人から「新しく入省した新人は歓迎のドッキリを仕掛けられる」と聞いたことを思い出した。知人は「『官僚のくせにふざけたことやってないで、もっと真面目に働け!』と糾弾されそうだ」と頭をかいていたが、今なら分かる。そうやって彼らはバランスをとっているのだ。

 知られざる官僚の生き方を、この一冊でぜひ知っていただきたい。


出版社:中央公論新社
書名:役人道入門
著者名:久保田勇夫
定価(税込):950円
税別価格:880円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/laclef/2018/11/150637.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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