「密漁ビジネス」の現実から消費者=共犯者は何を考えればよいのだろう?

『サカナとヤクザ』鈴木智彦著
『サカナとヤクザ』鈴木智彦著
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 休漁期間中のはずなのに三陸産のアワビが市場で流通しているのはなぜか。こうした疑問を追究していくと、そこに浮かび上がってくるのは漁業に暴力団が絡む「密漁ビジネス」だった。本書は、これまでにも暴力団に関連するノンフィクションを多く世に出してきた気鋭のライターが5年にわたって取材を重ねた渾身のルポである。その取材先は北海道、三陸海岸、東京・築地市場、漁業の町・銚子、宮崎・鹿児島、さらに台湾、香港にまで及ぶ。

 私たちの口に入る海産物が国際的な流通網に乗って運ばれてくることは、生活感覚からも実感できるだろう。実は「密漁ビジネス」も「グローバルビジネス」の側面をもつ。北海道で密漁されるナマコの行き先は中国であり、北海道のカニは旧ソ連・ロシアと無関係には成り立たないビジネスだ。九州で養殖されるウナギは、台湾で捕獲された稚魚を香港経由で密輸するルートもあるという。ヤクザはときにみずから海に入って密漁し、ときに流通に関わり、ときに密輸に関わるが、その動機はいずれも破格の「儲け」である。

 私たちが知らない「密漁ビジネス」という日本の漁業の現実がベールの向こうから現れるのが、疑いなく本書の魅力である。また、その方法も大きな魅力だ。現場主義というか、実証主義というか、取材にもとづくリアルな現実が生々しく目の前に示される。文書資料や伝聞も登場するが、著者がじかに接触した現場で暗躍する「当事者」の言葉で「現場」が語られて、著者が自分の目で見た「事実」が積み重ねられる。

 この本が読者に突きつけるのは、ただ「密漁ビジネス」の現実だけではない。「密漁ビジネス」が成り立つのは、そこに需要があるからだ。つまり消費者である私たちも「共犯者」なのだ。ウナギが絶滅危惧種に指定され、稚魚であるシラスウナギの不漁が伝えられても、スーパーマーケットの店頭で蒲焼きがふんだんに売られているし、丑の日が近づけば牛丼チェーン店のメニューにうな丼が登場する。「密漁に関わる人たち」と「食べたい消費者」との「持ちつ持たれつ」の関係があって需要が満たされる。資源保護という観点だけではなく、反社会的勢力の収入源ともなっている「密漁」という観点からも、漁業について考える良い機会を与えてくれたルポである。


出版社:小学館
書名:サカナとヤクザ
著者名:鈴木智彦
定価(税込):¥1,728円
税別価格:¥1,600円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09380104

 西日本新聞 読書案内編集部

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