「戦力を持たない自衛隊」の在り方に一石を投じる社会派フィクション

『インソムニア』辻寛之著
『インソムニア』辻寛之著
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 物語は自衛隊が派遣されたアフリカの内紛地帯での事件から始まる。国際NGOからの「駆け付け警護」要請によりPKO派遣部隊から特別警備小隊に男女7名が選任される。不幸にも一人は民兵の砲弾を受け現地で死亡。一人は帰国後、自ら命を絶ってしまう。遺族、隊員へのメンタルサポートに臨むことになったメンタルヘルス官の神谷啓介は「現地で何があったのか教えてほしい」という遺族からの頼みを受け、医師の相沢倫子の協力を得ながら真実に迫る。

 第22回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作である本作には、2つの側面がある。一つは社会派フィクションだ。国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣と、2016年11月に新たに付与された「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」がテーマになっている。もう一つが本格ミステリーだ。その要となるのは、タイトルにもある「インソムニア」。インソムニアとは英語で不眠症を意味する。作中でこの不眠症が何を意味するか悟る時、おそらく身の毛がよだつような衝撃を受けることだろう。事件あるいは戦闘の予兆を感じさせながらもあえて場面転換する序章といい、隊員たちの証言により少しずつ真相を見せていく手法といい、読者の興味を引くのが非常にうまい。難しいテーマでありながら、深いリアリティーと迫力でぐいぐい読ませてくれる。

 防衛省・自衛隊に関するニュースでは、防衛省による南スーダンにPKO派遣されていた自衛隊の日報隠蔽、陸上自衛隊イラク派遣時の日報公表などが記憶に新しい。PKO参加五原則に則れば、現地で「戦闘」があってはならない。一方、現場で活動している隊員たちは曖昧な行動基準の中で任務を背負っている。そして実際に戦闘の渦中にいたとしても、戦闘はなかったと言わざるを得ない。作中では、こうした政治事情、マスコミの報道の在り方にも触れられている。憲法改正が議論される現在において、これからの日本の自衛隊の在り方に一石を投じる意欲作である。


出版社:光文社
書名:インソムニア
著者名:辻寛之
定価(税込):1,620円
税別価格:1,500円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334912697

 西日本新聞 読書案内編集部

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