未来を描けなくなった大人たちへ。ドラえもんからのメッセージ

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』著・原作/藤子・F・不二雄 著/辻村深月
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』著・原作/藤子・F・不二雄 著/辻村深月
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 子どもの頃、なによりも未来に夢を抱かせてくれたのが『ドラえもん』だった。21世紀になればテクノロジーによって素晴らしい未来がやってくる、漠然とそう信じていた。たしかにテクノロジーは進歩した。けれども現実に訪れたのは原発事故だった。人工知能の脅威についての議論もかまびすしい。そして気がつくと、未来を思い描くことを忘れていた。いや、忘れていることにさえ気づいていなかったというべきか。この小説に出会うまでは。

 本作は、同タイトルの映画の脚本を手掛けた直木賞作家・辻村深月氏が書き下ろした長編小説である。と聞くと、ドラえもんの作品を小説で読むことに違和感を覚える人もいるかもしれない。たしかにアクションシーンの迫力は映画や漫画には及ばないだろう。けれども物語を動かす登場人物たちの想いは、文章だからこそ心に深く刻まれる。

 「月には絶対ウサギが住んでいる!」。物語はのび太のこの空想が、いつも通りジャイアンたちに馬鹿にされるところから始まる。だが、月にウサギがいるという空想は、なにものび太ひとりのものではない。平安時代以来、1000年近くにわたって日本人に伝え続けてきた「かぐや姫」と並ぶ月の伝説である。

 そしてこの物語にも、地球から遠く離れた「カグヤ星」という星が登場する。人間そっくりの生物が住み、地球よりも文明が発達したその星は、しかし、その文明の礎(いしずえ)であるテクノロジーの力によって滅びつつあった。1000年前に人々が支配のため、自分たちの欲を満たすためにつくりだした人工知能によって。

 のび太の空想を実現するために月を訪れたドラえもんたちは、カグヤ星の元住人たちと出会い、彼らを救うためにカグヤ星に向かう。そこで人工知能との戦闘中にドラえもんは叫ぶ。「想像力は未来だ! 人への思いやりだ! それをあきらめた時に、破壊が生まれるんだ!」と。

 想像することをあきらめないこと。もしかすると本作は、未来やテクノロジーに希望を持てなくなった大人たちへの、著者から、いや、ドラえもんからのメッセージなのかもしれない。ページを閉じた後、ベランダに出て、ぼんやりそんなことを考えながら月を見上げた。


出版社:小学館
書名:小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」
著者名:著・原作/藤子・F・不二雄 著/辻村深月
定価(税込):1,944円
税別価格:1,800円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09386529

 西日本新聞 読書案内編集部

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