ドン底の元人気女子アナが故郷の奇祭のため奮闘する、同名映画の小説化

『きばいやんせ!私』工藤晋著 [原作]足立紳
『きばいやんせ!私』工藤晋著 [原作]足立紳
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 人生はよく、曲がりくねった道にたとえられる。思うように進まなくても、深い穴に転げ落ちてケガをしても、結局自分の力で這い上がり歩いていかなくてはならない。肝心なのは進む気があるかどうかだ。『きばいやんせ!私』を読むと、そうしみじみ感じる。

  本書は2019年3月に公開の、同名の映画をノベライズ化したものだ。「きばいやんせ」とは、鹿児島の方言で「がんばれ」の意。主人公・児島貴子は不倫騒動によって「好きな女子アナランキング」1位から転落し、閑職に異動させられる。仕事でもプライベートでもドン底続き、まんまと自分の後釜にすわった後輩の女子アナに呪詛(じゅそ)を吐き続ける貴子に押しつけられたのは、47都道府県の奇祭を取材する企画。そのひとつ、御崎神社から近津宮神社まで、20kmに及ぶ険しい道を一度も神輿を降ろさずリレーし続ける「御崎祭り」の下見のため、鹿児島県南大隅町を訪れる。実はその町に、貴子は子どもの頃1年間だけ住んでいたのだ。ここでも相変わらずやる気がなくワガママな態度を崩さない貴子だが、亡き父とかつて通った食堂の主・ユリやぶっきらぼうな元同級生・橋脇太郎との出会いが、次第に彼女を変えていく……。

 主人公の貴子は、控えめにいっても「ものすごーくイヤな女」だ。本人が「鼻持ちならないクソ女」と自称するように、周囲を口汚く罵り、元人気女子アナという実績を鼻にかけて仕事を舐(な)めきっている。「そりゃつまんない仕事しか回ってこないでしょ」と心の中でつぶやきたくなるほどだ。しかし、そんな彼女が故郷の人々や美しく穏やかな思い出に触れ、自分を見つめ直す。そして、今や伝統の姿を失い、軽トラで神輿を運ぶようになってしまった御崎祭りの復興のため奮闘するのだ。頑固な実行委員長や人手不足という問題と戦う貴子は、「泥臭く頑張るまぶしい女性」になる。そこには「クソ女」の面影はどこにもない。泥に足をとられながらももがく彼女を、いつしか全力で応援したくなる。

  作家・三浦綾子氏の印象的な言葉に、次のようなものがある。「つまずくのは、恥ずかしいことじゃない。立ち上がらないことが、恥ずかしい」。必死で立ち上がろうとする貴子に、きっと勇気をもらえるはずだ。


出版社:双葉社
書名:きばいやんせ!私
著者名:工藤晋 [原作]足立紳
定価(税込):630円
税別価格:583円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52190-0.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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