『機動戦士ガンダム』は何を語るのか-安彦良和の作品群が示す現代的意味

『安彦良和の戦争と平和』杉田俊介著
『安彦良和の戦争と平和』杉田俊介著
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 2019年は『機動戦士ガンダム』のテレビ放映から40年の節目にあたる記念の年だという。わくわくドキドキしながらストーリーの展開に興奮し、ときに涙しながらテレビ画面を見つめるガンダム・ファンが、この間に数え切れないほど生まれてきたことはいまさら言うまでもない。本書でその創作活動が俎上にのせられる安彦良和は、『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・作画監督を務め、のちにこれをコミカライズ(漫画化)したことでも知られる人物だ。著者は、『機動戦士ガンダム』をはじめ、のちに安彦が漫画家として描いた『虹色のトロツキー』などの日本近代史シリーズ、『ナムジ』などの日本古代史シリーズ、『ジャンヌ』などの西洋史シリーズといった一連の作品群から、その奥深さ、おもしろさを読み解いて作品群がもつ普遍的な意味を探りあてようとする。

 本書の大きな特徴は、安彦作品の読み解き作業がけっして著者の独りよがりに陥らないことだ。その理由は、本書を少し読めばすぐにわかるのだが、著者が安彦にインタビューをしながら、ときとして討論をしながら、その作品論を深めていくという方法を採用していることにある。つまり、著者が単独で論評を展開していくのではなく、多くの紙幅が安彦の発言に割かれていて、いわば安彦の生の声も読者に届くという構成になっている。ちなみにこのインタビューは合計20時間にもおよぶものだという。

 では、著者による安彦作品の読み解き、さらにインタビューという二人の相互行為を通じて、いったい何が明らかにされたのだろうか。それは当然のことながら、ガンダムのテーマはニュータイプが世界を変えることなどという表層的なものではない。ガンダムから始まって、その後の漫画諸作品に至る一連の作品に通底するテーマは「歴史」であり、その歴史を生きた人間である。もちろん人間は一人で生きているわけではなく、安彦が描くのは、この世界で共存し、ときに互いを敵として戦ってきた人間たちである。この人間たちは相互に「分かり合える」存在として歴史を刻んできたのかどうか、人と人は分かり合えるものなのか? 安彦作品はこうした疑問を私たちに投げかけているというのが、著者のひとまずの結論である。


出版社:中央公論新社
書名:安彦良和の戦争と平和
著者名:杉田俊介
定価(税込):994円
税別価格:920円
リンク先:http://www.chuko.co.jp/laclef/2019/02/150646.html

 西日本新聞 読書案内編集部

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