この男、規格外につき。渦中の人物によるヘビー級の自叙伝

『男 山根 「無冠の帝王」半生記』山根明著
『男 山根 「無冠の帝王」半生記』山根明著
写真を見る

 2018年夏、マスメディアをにぎわせた日本ボクシング連盟会長辞任騒動。その渦中の人物、山根明氏の自叙伝である。読後の印象を一言でいうと、「規格外」。本人いわく、本書刊行の目的は騒動の引き金となった数々の疑惑を晴らすことにあるそうだが、正直いって、氏の常人離れした生き方を知ってしまうと、それぞれの真偽などどうでもよくなってしまう。不適切な発言かもしれないが、それほどまでに衝撃的なのだ。

 なにしろ冒頭から穏やかではない。監督として参加した試合会場で、背後から銃撃されたエピソードで幕を開けるのだ。その後もページのいたるところで怒声が響きわたり、灰皿が飛び交う。これは本当にスポーツに携わってきた人物の本なのかと、誰もが思うだろう。登場する人物たちの顔触れも破格だ。平成の天皇陛下、力道山、勝新太郎、裏社会のドン…。やくざと喧嘩しては殴り倒していたという、かつての地方ボクシング連盟の荒くれ者たちも強烈な印象を残す。

 「世界の山根」と呼ばれるだけあって舞台は国内だけではない。スポーツとはいえ、海を渡れば金と権力が物をいう世界。役員を務めた国際ボクシング連盟には、世界的マフィアや各国トップクラスの実業家たちの名が並ぶ。彼らのようなバックグラウンドを持たない氏の武器は「男気」のみ。理不尽な扱いを受ければ、「何ぬかしてんねん、ボケ! こらあ! 目ん玉くり抜いたろか!」と大阪弁で罵倒する。相手があの国際オリンピック委員会・サマランチ会長の娘であっても「シャーラッープ!」と一喝する。そうして日本ボクシングの地位向上のために世界とやり合ってきたという。

 そんな氏のファイティングスピリットの裏には、自身「裏の道を歩かざるを得なかった」と語る苦難に満ちた過去がある。韓国にルーツを持つ両親のもとに大阪で生まれるも、太平洋戦争が終わった6歳のとき、家族は父を残して韓国へ。しかし山根氏は、父に会いたい一心で、二度にわたる挑戦で日本への入国を成功させる。とはいえ、戸籍上は密入国者。まともな教育も受けられず、在留資格を得る27歳まで、警察に職務質問されたら即強制送還という立場だったのだ。

 そんなドン底のような状況から日本ボクシング界トップへといたるストーリについては、ぜひ本書を手に取って確かめてほしい。痺れる大作ギャング映画を観た後のような、ヘビー級のスリルと興奮が味わえるはずだ。


出版社:双葉社
書名:男 山根 「無冠の帝王」半生記
著者名:山根明
定価(税込):1,400円
税別価格:1,512円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/smp/book/bookview/978-4-575-31435-9/smp.html

 西日本新聞 読書案内編集部

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]