迷惑メールを追う(上)「1日2億通」システム開発者が証言 甘い言葉で“出会い系”誘導

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 国民の8割以上が携帯電話やスマートフォンを持つ時代。誰しも、さまざまな文面の「迷惑メール」を一方的に送り付けられた経験があるだろう。詐欺的な内容も含まれ、被害の実例もある。一体誰が、どうやって送信しているのだろう。特命取材班は迷惑メールのからくりに迫った。

 東京都内の駅改札口前。約束の時間通りに、佐藤さん(30代、仮名)は現れた。職業はシステムエンジニア。実は、首都圏のベンチャー企業に勤務していた20代の頃、迷惑メールに関わっていたという。今回、匿名を条件に取材に応じた。

 「ある業者から依頼を受け、大量にメールを送信するためのシステムを開発し、実際の送信業務まで担っていました」

 証言によると、システム自体は特別なものではなく、登録者に一斉送信するメールマガジンと構造は同じという。

 捜査の手が及びにくいように、中国をはじめ、欧州や南米、アフリカなどの9カ国にダミー法人を設立。メールの送受信を管理するメールサーバーを計千台以上、各国に分散して配置した。それらのシステムを、佐藤さんは日本から操作した。1台当たり1分間に7、8万通を送信できる。「1日当たりの送信数は、多いときで2億通を超えましたね」。システム構築のために海外出張も重ね、中国・北京には1カ月ほど滞在した。

 当局の目を意識した対策も。現地で雇ったダミー法人の社長には、いざというときの「捕まり役」との含みで月300万円ほどの報酬が支払われていた。実際、中国で現地の社長ら2人が公安当局に身柄を拘束されたことがあった。「報酬の1、2割を当局の役人に賄賂として渡せばいい。翌日には出てきて、役人と飲みに行ってましたね」

 運営元が露見しないように、ネット上の掲示板に特定の文字を書き込めば、システムの証拠が自動的に消える仕掛けもしていたという。「自分の命が懸かっているから、絶対にばれるわけにはいかなかった」

 では、佐藤さんに依頼してきた業者とは、どんな組織だったのか-。

    ◇      ◇

■返信対応はホスト 甘い言葉で「出会い系」誘導

 依頼を受け、迷惑メールの送信システムの開発や送信業務に関わったと証言したシステムエンジニアの佐藤さん(30代、仮名)。依頼者は「広告代理店」を名乗る業者だった。東京都内のアパートの一室に事務所を置いていた。

 「社員は5人、アルバイトを入れて10人弱。メタボな人や気が弱そうな人、大学を卒業したばかりのごく普通の若者たちでした」

 佐藤さんの役割は、社員から渡された文面の迷惑メールを指示された日時に、リストの送信先に送る作業だった。

      ■

 ○○駅で会えますよ~。待ってるね

 佐藤さんの証言によると、最初のメールは定型文を一括送信する。例えば1億人に送った場合、返信があるのは千人ほど。その一人一人ときめ細かにやりとりを重ねるのは、バイトの仕事だ。

 主に担うのは、社員が東京・歌舞伎町や池袋の繁華街でスカウトしてきたホストやキャバクラ嬢たち。夜の街で培った絶妙な駆け引き、甘い言葉を駆使しながら、携帯電話を通じて昼も夜も事務所や自宅でやりとりを続ける。

 誘導するのは「出会い系サイト」。異性とメッセージを交換するためのポイントを購入させる。実体は「出会えない系サイト」だ。待ち合わせの約束をしても、実際には姿を現さない。「おなかが痛くなっちゃって」などとはぐらかし、言葉巧みに引き延ばせるだけ引き延ばす。最終的には、10~20人程度が高額のポイントを繰り返し購入するようになるという。

 「3千万円をつぎ込んだ中年女性もいました。旦那が相手をしてくれないとか、離婚したとか、欲求不満を抱える40、50代の女性が一番のかもでした」

 「広告代理店」は、少なくとも月に数千万円を稼いでいた、と佐藤さんは話した。

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 総務省によると、スマートフォンや携帯電話ユーザーの1日当たりの受信メール数(2017年12月時点)は13億1179万通。このうち迷惑メールは約38%に当たる4億9362万通に上る。近年は減少傾向にあるものの、とてつもない数字だ。

 全国の消費生活センターなどには、16年度に4万5835件の相談が寄せられた。4割以上が60歳以上の高齢者。「数億円が当選した」とのメールに返信してしまい、受け取るための「手数料」をだまし取られた60代男性もいた。

 佐藤さんに、犯罪の片棒を担いでいるという自覚はあった。ただ、就職氷河期にやっと採用されたシステム会社で命じられた業務。「やっていることは、人間の血を吸って生きてる蚊みたいなもん。でも、やらないと生きていけなかった」。数年前に退職し、今はエンジニアとして普通の仕事をしているという。

 今も迷惑メールの被害は後を絶たない。最大の防御策は何なのか尋ねた。

 一つは「迷惑メールが来ても相手にしない」。さらに「アドレスを含めた個人情報が盗まれないように、会員制交流サイト(SNS)のパスワードを複雑にする」。単語を避け、大文字や小文字、数字、記号を不規則に組み合わせた12文字以上が理想的だという。

 「ただし」と佐藤さんは言葉をつないだ。

 「迷惑メールは、欲求不満など人間のコンプレックスにつけ込んでいる。心の隙間が狙われる限り、被害はなくならないでしょう」。問題はシステムの脆弱(ぜいじゃく)性よりも、心の弱さか。

     ××

 3回にわたり報告する特命取材班の「迷惑メールを追う」。(中)では実際に迷惑メールに返信して見えてきた新しい手口を紹介し、(下)ではメールアドレスが取引される実態に迫る。

迷惑メールを追う(中)記者が返信すると…

迷惑メールを追う(下)名簿屋、流出情報カネに

=2018/02/16付 西日本新聞朝刊=

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