本人同意なく解剖、是非は 身よりない生活保護者、市が献体“紹介“も 透けて見える「無縁社会」

献体するには、あらかじめ本人が、家族の同意署名が入った生前登録の申出書を大学に提出する必要がある。献体時に遺族は解剖承諾書を出す(写真の一部を加工しています)
献体するには、あらかじめ本人が、家族の同意署名が入った生前登録の申出書を大学に提出する必要がある。献体時に遺族は解剖承諾書を出す(写真の一部を加工しています)
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 献体-。医学の研究・発展のため遺体を大学の解剖学実習に提供することだ。もちろん、本人の同意が必要だが、福岡県内の病院職員から「同意のないケースもあった」との情報が特命取材班に寄せられた。献体を“仲介”する自治体もあるという。身寄りのない独居高齢者が多い「無縁社会」の一断面が透ける。

 病院職員が証言するのは2009年の話。生活保護を受給し、末期がんで入院する福岡県春日市の70代男性について、市職員のケースワーカー(CW)が本人に無断で親族から同意を取り福岡歯科大(福岡市)への献体手続きを進めていた。

 CWいわく「息子が死後の引き取りを拒否している。公費抑制のため葬祭扶助(火葬代など約20万円)は出したくない」。院長名で市に抗議文を出したが、担当課長は「違法ではない」と譲らなかった。結局、本人が「献体は嫌だ」と明言したため、市は葬祭扶助を出して市の無縁墓地に埋葬すると約束したという。

 春日市に取材すると、当時の課長は既に亡くなり、記録も残っていなかった。

 今はどうか。同市では「死後を託せる人がいない」と話す生活保護受給者には、CWが献体の生前登録を紹介しているという。16年度までの5年間に亡くなった単身受給者127人のうち15人が献体した。人口規模が同じ近隣の同県筑紫野市、大野城市ではゼロ。“市の仲介”が判断に影響していることがうかがえる。

 春日市の担当者は言う。「強制も誘導もしない。火葬費を出しても骨を拾わず帰る親族も多い。『医学の役に立って、大学の納骨堂に埋葬してもらえるなら』と喜ばれる方もいます」

「献体」が「身寄りなき遺体」の受け皿に

 春日市のようなケースは珍しい。九州の県庁所在地・政令市はすべて「献体を紹介したり、手続きを代行したりすることはない」との立場。医学部、歯学部のある福岡県内の各大学も、福岡歯科大を除き、行政の関与は否定した。

 もっとも、久留米大は「本人同意がない遺体もあります」と打ち明ける。どういうことか。

 献体とは別に、地元の病院などから連絡を受け、遺族が引き取りを拒否した遺体を受け入れることがあるという。同大では、13年4月~今年1月に受け入れた245体のうち58体はそうした遺体だった。

 違法とは言い切れないことも分かった。91大学が加入する篤志解剖全国連合会によると、遺体受け入れを巡っては二つの法律がある。死体解剖保存法(1949年施行)と献体法(83年施行)。献体法が求める本人同意を保存法では求めておらず、遺族の同意か、身寄りのない遺体は市町村からの「交付」があれば解剖できるとしているのだ。

 身寄りのない高齢者が増えている昨今、大学への提供が、遺体の安易な受け皿になっていないか。

「人権侵害の可能性」指摘も

 古くは刑死者や身元不明者の遺体が解剖学実習に充てられた経緯から、「解剖=残酷」というイメージが強く、遺体提供は嫌悪された。連合会の松村讓兒会長(杏林大教授)は「かつては大半の大学が病院や高齢者施設、市町村に身寄りのない人の遺体提供をお願いしていた。今もそうした例が一部で残る」と明かす。

 実習済みの遺体数に占める献体数の割合(献体比率)は2016年度、99・4%。春日市のケースも、当時の課長が「違法ではない」としたのは献体ではなく、保存法に基づく手続きだったからかもしれない。

 一方、倫理上の問題を指摘する声もある。板井孝壱郎宮崎大教授(生命倫理学)は「遺体も本人のものとの認識が定着しつつあり、人権侵害の可能性がある」。春日市のやり方については「生活保護の開始・廃止権を持つ市の提案を無言の圧力と感じる人もいるだろう。自発的な献体といえるか、意見は分かれる」と話す。

=2018/04/25付 西日本新聞朝刊=

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