なぜ、卒業式で上履き脱ぐ? 「被災時に危ない」の声も 熊本・宮崎市の小学校の「習慣」

熊本市のある小学校で使われている上履き
熊本市のある小学校で使われている上履き
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 「驚きました。熊本市の小学校では、卒業式や入学式で正面の壇上に登るときに上履きを脱ぐ習慣があるんです。どういう意味があるんでしょうか?」。熊本県外出身という40代の女性=熊本市=から、特命取材班にこんな疑問の声が寄せられた。市教育委員会や各学校に理由を尋ねても、よく分からない。なぜだ。

「被災時に危険では?」

 今春、女性の息子が通う小学校の卒業式。体育館に入場した6年生は全員、上履きを脱ぎ、椅子の下に置いた。卒業証書を受け取りに校長がいる壇上に上がるとき以外も、約1時間半の式の間ずっと靴下だけで過ごしたという。

 「足先が冷えてかわいそうだし、熊本地震のようなことが起きたら危ない」と女性は思った。2年前の地震では、熊本市内16小学校の体育館が破損し、使用不能になった。

福岡市など「聞いたことがない」

 市内の小学校に電話すると、取材に応じた10校全てが「卒業生と校長は壇上で上履きを脱ぐ」と答えた。脱いだ上履きは、椅子の下に置く▽体育館の入り口に置く▽教室で脱いでから体育館に行く-など伝統に微妙な違いもあるようだ。

 他県はどうなのか-。福岡市、長崎市、大分市、鹿児島市の担当者は「聞いたことがない」と回答。北九州市は「足音を立てないように来賓がスリッパを脱ぐことはあるが、児童は脱がない」とか。宮崎市は「過去に壇上で脱ぐよう教員に出した通達があり、児童も脱ぐことが多い。体育施設と、儀式をする壇上を区別する意味だろう」と推測した。佐賀市は「脱ぐ脱がないは、学校それぞれではないか」という。

「理由は不明」「厳かな儀式なので…」

 そもそも、壇上で上履きを脱ぐことにどんな意味があるのか。熊本市教委の職員は「脱ぐようになった時期や理由は不明。市教委で定めた基準はない」と素っ気ない。依頼人の女性は他の保護者たちと連名で、市教委に壇上での上履き着用を認めるよう要望もしている。担当者には「積み上げてきた歴史や児童数などが異なり、学校の判断に任せている」とはぐらかされたという。

 現場の教員を取材すると「当然と思い、深く意識したことがなかった」「厳かな儀式なので敬意を表して脱ぐ。掃除などで上履きのまま上がると、足がむずむずする」などの答えが返ってきた。どうやら「大事な場所に土足で上がったらいかん」という発想が根っこにあるようだ。

十分な説明がなされているか

 共栄大の藤田英典教授(教育社会学)は「壇上は国旗掲揚したり、一礼して登壇したりする人も多く、聖なる空間と考えられている。上履きを脱ぐ行為は、畏敬の念を表す儀礼的な振る舞いではないか」とみる。

 「はだしや靴下で講堂に上がっていた戦前の名残では」と語るのは九州大の木村政伸教授(日本教育史)。「学校には地域ごとに独特の風習が残る。例えば、福岡県の学校では体育の授業中、立ったり座ったりする際に『ヤー』という号令を掛ける。上履きを脱ぐのは熊本特有の風習だろう」と指摘した。

 とはいえ、県外から転校してきた児童や保護者に十分な説明がされているとは言い難いのではないか。記者が取材を申し入れただけで、あからさまに不快感を示した学校関係者もいた。「虚礼廃止」と一刀両断に主張するつもりはないが、理由も分からないままでは…。「隔靴掻痒(かっかそうよう)」とはこのことか。

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 【隔靴掻痒】靴の外部から足のかゆい所をかくように、はがゆく、もどかしいことをいう。(広辞苑)

=2018/05/19付 西日本新聞夕刊=

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