訪問診療で不正請求? 元職員「架空、水増し常態化」 院長「やってない」 福岡市

患者の元に届いた昨年1~8月分の医療費の通知。取材班が確認してみると、在宅医療が行われたことを示す「医科在診」の回数と、患者がつけていた日記の記述が一致する月はなかった
患者の元に届いた昨年1~8月分の医療費の通知。取材班が確認してみると、在宅医療が行われたことを示す「医科在診」の回数と、患者がつけていた日記の記述が一致する月はなかった
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 高齢者への在宅医療を行う福岡市の診療所が、診療報酬を不正に請求している-。そんな情報が特命取材班に寄せられた。架空請求などを指示する音声データも存在するという。事実なら保険医登録取り消しなどの対象になる。60代の男性院長は取材に対し、不正を否定した。果たして-。

 診療所は2011年に福岡市に開院。院長は体が不自由で「要介護は4」。それでも、看護師の介助を得ながら診療を続けてきたという。昨夏に副院長だった弟が独立してからは、「50人ほどの患者を月に最低2回以上は訪問している」と説明する。

 複数の元職員によると「院長の体調が悪化した14年ごろから、不正が目立つようになった」。患者が職員の家族である場合、何年も診ていないのに「在宅患者訪問診療料」などを保険者に架空請求したり、同居する患者夫婦を一度に診療しているのに別々の日に診たようにして水増し請求したりしていた、という。

 不正に関わったという元職員は「医師が月2回診療すれば診療報酬を高く請求できる。患者1人につき『必ず月2回は訪問したことにしろ』と院長から指示されていた」と証言する。

 元職員が院長の指示を録音したという音声データもある。

音声データ▼

 「朝行ったことにすりゃいいやない。7時半~8時に行ったことにしとって」

 「僕は2回行ったんよね、土曜日に。それを奥さん。ご主人は毎月違う曜日、火曜日にして。火曜2回、土曜2回。2回しか行ってないっちゃん、本当は」

      ■

 取材に応じた患者の中には、医師や看護師の訪問を何年も日記につけていた人もいる。例えば、昨年1~8月の医師の診療は日記によると6回だったが、診療所が福岡県後期高齢者医療広域連合に請求した「医科在診」の回数は31回だったというケースもあった。

 不正が事実とすれば、なぜ何年も発覚しなかったのか。元職員によると、医療費の自己負担分を患者から徴収しなかったり、月額2千円など定額制にしたりしており、「診療所も患者にとってもウィンウィンだったから」と説明した。

 実際、複数の患者が「医療費を1円も払ったことがない。悪いことだとうすうす感じていたが、甘えてしまっていた」と証言。医師が来ない月があっても看護師が毎週薬を持ってきてくれるため、重宝していたという。「本当に体調が悪いときは近くの病院に行く」と言う高齢者もいた。

 院長は取材に対し、医療費の自己負担分を徴収していないことなどは認めたが、不正は否定。架空請求などを示唆する音声記録があることを告げると「記憶がないとは言わないが、そういうことを言ったことがあるかないかは即答しません」と話した。

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 診療報酬の請求を巡って違反が疑われる医療機関に、厚生労働省が「個別指導」を行ったのは16年度、4523件。監査は74件あり、このうち保険医療機関の指定取り消しは27件、保険医登録取り消しは21人だった。返還を求めた額は約89億円に上っている。

 そもそも、医療機関自らレセプト(診療報酬明細書)を作成し、自治体など保険者に請求する仕組みは「性善説」に基づいており、膨大なレセプトを自治体などがチェックするのは不可能。まして在宅医療では外部の目が入りにくく不正の温床になる可能性があり、実際に不正請求事案は各地で起きている。

 この診療所については元職員らが昨年9月、九州厚生局に情報提供したという。同局は「個別の案件はコメントできないが、情報があれば適正に対応する」と話した。

=2018/05/28付 西日本新聞朝刊=

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