高齢者の免許返納、なぜ進まない? 「難しくて諦めた」手続きに課題も 警察や地域、推進へ模索

免許返納を呼び掛けるポスター。代わりに交付を受けられる運転経歴証明書についても説明がある=7日午後、福岡南署
免許返納を呼び掛けるポスター。代わりに交付を受けられる運転経歴証明書についても説明がある=7日午後、福岡南署
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 神奈川県茅ケ崎市で90歳女性が運転する乗用車が歩行者4人をはねて死傷させた事故をきっかけに、運転免許証の自主返納制度が改めて注目を集めている。高齢者に返納を促す声が高まる一方、「警察署に行ったけど、手続きが難しくて諦めた」という声もある。お年寄りの気持ちに寄り添いつつ、返納を実現するにはどうしたらいいのか。

 特命取材班に経験を打ち明けてくれたのは、福岡市近郊に住む70代夫婦。今年3月、近所の警察署を訪れた。「50年ほど運転してきたが、最近、視力や体力の衰えを感じてきたので…」

 家族と話し合った上で返納の覚悟を決めたが、いざ相談してみると、応対した警察官からは「身分証が無くなってもいいですか」「証明書用の写真は持ってきましたか」などと矢継ぎ早に質問を浴びせられた。結局、手続きせずに帰宅したという。夫は「手続きが難しくて、不安になってしまいました」と話した。

 警察庁によると、自主返納する場合、主に(1)免許をそのまま返す(2)免許を持っていたことを示し、身分証明書代わりになる「運転経歴証明書」を発行してもらった上で返す-などの選択肢がある。(2)の申請には、大きさと背景の指定がある顔写真や、千円程度の手数料が必要。警察署では写真撮影できず、煩わしく感じる人がいるかもしれない。運転免許試験場なら、写真の用意は必要なく、即日交付されるそうだ。

 運転経歴証明書は、金融機関などで本人確認に使用できる。提示すれば、各地の交通機関が返納者を対象に行う割引サービスを受けられるメリットもある。

 内閣府が1月に公表した意識調査によると、返納制度を知る人の割合は95%を超えた一方、運転経歴証明書を知る人は半数程度だった。「運転経歴証明書の認知が広がれば、もっと返納者は増えるはず」と、福岡県警幹部はみる。

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 女子中学生を軽ワゴン車ではねて死なせたとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪で起訴され、昨年9月に福岡地裁で有罪判決を受けた男性被告(77)は、事故の2年前に受けた高齢者講習の運転適性検査の結果、「判断機能」が同年代よりやや低く、平均的なドライバーよりかなり低下していたという。

 一方、茅ケ崎市の事件で逮捕された90歳女性は、最近の認知機能検査では問題なかった。加齢による影響を一概に語るのは難しい。

 ある調査では、高齢者講習と優良講習受講者のうち「運転技術に自信を持っている」と答えた人が80歳以上の男性で76%、女性58・3%。年齢とともに割合は上がった。本人に自信があり、認知症など目立った病気がない場合、返納を求めづらい現実もある。

 自主返納しても「生活の足」の確保が課題。警察庁は、高齢者が運転できる車種や場所、時間帯を絞った「限定条件付き免許」の可否を検討している。

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 九州でも、返納を促す新たな動きが出ている。

 福岡南署は2月、認知症などと診断された高齢ドライバーの情報を提供するよう福岡赤十字病院(福岡市南区)に協力要請した。北九州市は免許を返納した人に割引などの特典を与える事業者を募集し、「自主返納サポーター」として登録している。交通機関だけでなく、飲食店や商業施設も含め、街全体で返納をサポートする狙いがある。

 65歳以上の免許保有者は2017年末現在、全国に約1818万人、80歳以上は約221万人いる。危ないからと頭ごなしに迫るのではなく、高齢ドライバーの気持ちや生活に配慮することが大切だろう。

 福岡県警運転免許管理課の真角俊行次席は「ハンドルを握ることで、被害者にも加害者にもなってほしくない。家族や周囲と話し合う機会をつくってほしい」と話した。

=2018/06/08付 西日本新聞朝刊=

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