「もし事故起きたら…」保育所スピード整備 陰に戸惑う住民 福岡市

保育所建設予定地付近からは、住宅が密集する地域が見渡せた
保育所建設予定地付近からは、住宅が密集する地域が見渡せた
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 「保育所の緊急整備が必要なのは分かるが、建設予定地の住民には戸惑いもある」。認可保育所などを希望しても入所できない待機児童の解消に向け、福岡市が急ぐ「保育の受け皿確保」を巡り、読者から取材班に連絡があった。現場を歩くと、人口が増え続ける中、市が進めるかつてない「スピード整備」の陰で苦慮する住民や保育関係者の姿があった。

 保育所設置へ、地域から懸念が出ていると指摘があった福岡市の保育所建設予定地に向かった。路線バスが走る大通りから徒歩約5分。高低差約30メートルの坂を上った丘にある閑静な住宅地だ。一戸建てが並ぶ区画の真ん中の空き家を解体した後、社会福祉法人が認可保育所を建設するという。

 近所の住民男性は語る。「未来を担う子どものために協力したい思いはある。でも…」。約100人という予想以上に多い定員に不安を覚えたという。送迎のピークは小学校の通学時間と重なる。「周囲の道幅は広くない。もし事故が起きたら…。ここが保ってきた静かな環境にも配慮してほしい」と口にした。

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 この地での開設は、既に福岡市が認可している。事業者公募に社会福祉法人が応じ、今春、事業計画が市の審査を通過した。市によると、用地について、位置図を見た有識者による専門部会から異論はなかったという。「丘の上の住宅密集地で、保育所用地として完璧ではないかもしれない。でもニーズがある所に、まとまった土地はそもそも少ない」と市子育て支援部の担当者は語る。

 認可保育所などへの入所申込数は、福岡市で年々増えている。今年4月時点で約3万8千人の申し込みがあり40人の待機児童が出た。希望先を絞ったなどの理由で待機児童に数えられなかった「隠れ待機児童」は1431人いる。

 市は本年度も49億円を投じて約2千人分の受け皿を新たにつくる方針。担当者は「政策の一丁目一番地。待っている親御さんがいるから頑張らないと」と力を込める。

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 受け皿を増やすのに一番効果的なのが保育所の新設だ。福岡市は17年度の整備で、20カ所の開設を予定していた。だが、うち2カ所は地元住民との調整が進まず、今も開園していない。2カ所の事業者は「お話しすることはない」「住民の意向を踏まえ引き続き検討する」と多くを語らない。

 18年度に設置が決まった16カ所は全て来春の開設を目指すが、この「丘の上」の保育所は遅れる見込みだという。

 事業者の社会福祉法人は地元への丁寧な対応に努めてきたという。「この先数十年、そこにあり続ける施設だから」と、定員の2割削減や、エアコン室外機の位置の変更など計画を改めてきた。まだ本格工事には着手していない。「最大限、地元の理解を得た上で造らせてもらいたい」

 6~7月に3回、公民館で説明会を開いた。時に住民からの厳しい意見にさらされる“最前線”の場に市職員を呼んでいない。「民と民の問題なので、市には頼らない」との姿勢だ。市はやりとりを見守る意向という。

 住民にも、保育所の必要性自体を否定する人は少ない。だが「いざ自宅の隣にできると聞けば、誰もが考え込んでしまうのが現実」と福岡市保育協会の篠原敬一理事長は近年の実情を明かす。保育所ができたら周囲の生活環境はどう変わるか、住民がはっきりと分からないという背景もある。

 共働きが当たり前の社会で「社会インフラ」(福岡市の事業者)になった保育所。成長を続ける福岡市では、さらなる整備が必要になるだろう。地域との共生への処方箋づくりに、市はもう一歩、踏み出すべきではないだろうか。

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子育て環境整備で論戦

 人口の増え続ける福岡市では子育て環境の整備は重要な政策課題。11月4日告示、18日投開票の市長選でも論戦が展開される。

 今月2日に3選立候補を表明した現職の高島宗一郎市長は就任以来、昨年度末までの7年間で約1万3000人分の保育所の定員を増やした。6月の定例記者会見では、子どもの数だけでなく、好景気で親が働く場所も増えているとして「保育需要にしっかりと応えていきたい」と強調した。

 今月5日に立候補を表明した神谷貴行氏は会見で「高島さんになってから待機児童が減ったと説明しているが、『隠れ待機児童』は過去最悪のレベルで推移している。今のやり方は小手先で、問題は解消できない」と批判している。

=2018/10/07付 西日本新聞朝刊=

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