福岡のソウルフードを育てた“クレーム” 天ぷら「ひらお」が進む道 無料いか塩辛、完全復活へ一歩

揚げたての天ぷらを提供する「ひらお」のスタッフ=福岡市・天神の天神アクロス福岡店
揚げたての天ぷらを提供する「ひらお」のスタッフ=福岡市・天神の天神アクロス福岡店
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無料サービスを一部店舗で再開した「いかの塩辛」
無料サービスを一部店舗で再開した「いかの塩辛」
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福岡都市圏での直営にこだわる「ひらお」の青柳正典社長
福岡都市圏での直営にこだわる「ひらお」の青柳正典社長
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 天ぷら専門店「天麩羅処(てんぷらどころ)ひらお」で6月に休止していた自家製「いかの塩辛」の無料提供サービスが期間・店舗限定で復活した。休止の影響は「予想以上だった」と、店を展開する「ひらお」(福岡市)の青柳正典社長は驚く。創業から40年、その味を守ってきた立役者は数々の「クレーム」だという。福岡の“ソウルフード”の秘密に特命取材班が迫った。

■休止で客足2割減

 塩辛サービスの休止は6月。同社によると、6店舗(当時)で販売と無料提供向けの塩辛に必要なスルメイカは1日400キロ、1カ月で約1万2千キロだが、不漁で価格が高騰し、必要量を確保できなくなった。

 その後イカを8千キロ確保し、9月に販売を再開した。無料サービスは今月開店した天神アクロス福岡店で月末まで実施。確保の先行きは見通せないが、同社は完全復活を目指している。

 内臓を使わず塩分を控えた塩辛は、ユズの風味とふんわりした食感が特徴。「主役級の脇役」とも言われ、サービス休止の影響は惜しむ声だけではなく、数字にも表れた。「お客さんが2割減った。うちは天ぷら専門店なのに」と青柳さんは苦笑いする。サービス休止を知らずに入った客から「返金しろ」と求められたこともあったとか。

 再開した塩辛には北海道産のイカを使用。本来は「柔らかい福岡産を使う」という。青柳さんは「常連さんには『味が違う』と言われかねない」と心配する。

■客に見せ品質維持

 ひらおは1978年、青柳さんの父が福岡市博多区東平尾に「ドライブインひらお」を開いたのが始まり。翌79年、業態を天ぷらに統一し「天ぷらのひらお」としてスタートした。

 店舗は交通量の多い幹線沿いに展開してきた。仕事の合間を縫い、空腹を抱えて店に飛び込む客の指摘は、時に厳しい。

 「隣のより俺のナス(の天ぷら)がこまい(小さい)」「エビが違う」。「つゆが辛か」-。こうしたクレームを、ひらおは流さずに受け止めてきた。

 青柳さんは語る。「クレーマーさまさま。社員よりも品質にうるさいクレームが『ひらお』の味を守ってくれる」

 ひらおの内装は壁もテーブルも白色が基調だが、これは「汚れをあえて目立たせ、清潔に保つため」。コの字形のカウンターは効率を求めるだけではなく、調理風景を「後ろから見せるため」でもある。「見せることで、こちらがちゃんとしないといけなくなる」

■席数34の「方程式」

 新たに開いた天神アクロス福岡店は、約30席の客席に対して、待合席が約50人分もある。揚げたてをカウンター越しに出すスタイルでは、客席を増やしすぎると揚げたてを提供できないからだ。

 最も効率の良い席数は「34」という。揚げる、配る、ご飯をよそう、などに従事する3人一組のスタッフが、仕事の質を落とさずに料理を提供できる最大の人数が「17」。「コ」の字形のカウンターを半分に分け、スタッフを2組配置すれば「34」になる-。長年の経営でたどり着いた、ひらおの“方程式”だ。

 7店舗のうち6店を福岡市内、1店を隣接する福岡県久山町に置く。青柳さんは「材料の鮮度と味を妥協せずに保つにはここ(福岡市東区の工場)だけでやるしかない」と、広域展開はしない考えという。

 福岡のソウルフードでありつづけるこだわりを、青柳さんはこんな表現で語った。

 「工場が二つになると、やり方が変わる。やり方が変わると味が変わる。味が変わると飽きられる。『昔はおいしかったのにね』とだけは言われたくない」

=2018/10/11付 西日本新聞夕刊=

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