知られざる16年前の善意…図書費9000万円を寄付、亡き男性の思い

福岡市総合図書館に設けられた「おおくぼいわお文庫」の本棚
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福岡市総合図書館の「文庫」の説明板
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 「多額の寄付により創設された文庫が福岡市にあるんですが、あまり知られていないんです。もったいなくて」。その金額、何と9千万円という。情報提供を受け、あなたの特命取材班が調べてみたが、過去に本紙の報道で取り上げられたことはない。寄付金は、文庫に加えて市内の小学校の図書購入にも充てられていたとのこと。その本たちに込められた思いとは-。

「夢を育み健やかに育って」

 向かったのは、福岡市総合図書館(早良区百道浜3丁目)。担当職員に1階の児童図書コーナーに案内してもらうと、本棚の上に「おおくぼいわお文庫」という案内を見つけた。この一角に置かれているのが、大久保巖さん(故人)の寄付金による図書だという。説明板には、「子どもたちが夢を育み健やかに育ってほしいとの願いをこめて」。

 字が大きめのファンタジー小説、日本の歴史が分かる写真集、折り紙や昔の遊びを紹介した本…。使い込まれた背表紙がずらっと並ぶ。担当職員は「長年にわたり読み継がれている作品という基準で私たち図書館側が選書し、購入させていただいた」と話す。

本好きの少年…事業で得た私財寄付

 9千万円の寄付があったのは、2002年のこと。当時、市に橋渡しをしたのは、市民団体「身近に図書館がほしい福岡市民の会」(現在は身近な図書館の会・福岡)の力丸世一代表(71)で、会員だった大久保さんの親族から依頼された。力丸さんは直接会話したことはないが、伝え聞いたところでは、大久保さんは幼少期に博多区の旧奈良屋小に通っており、とても本好きな少年だったという。子どもはおらず、事業で得た私財を寄付したらしい。

 図書館は02年度からの3年間に、寄付金のうち1104万円を使って8027冊の本を順次購入していき、03年4月、文庫として整え開設した。残りの約8千万円は、大久保さんの意向で市内の全145小学校(当時)の図書整備に充てられた。市教育委員会が作成した決算額の一覧表を見ると、02年度から3年間、各校に約10万~30万円ずつ毎年分配されていた。

 ところが、力丸さんはそのころ、ある小学校長からこう驚かれたことがある。「そんな寄付があったとは全く知りません。本当ですか?」

由来伝える表記、既に撤去

 学校側に、大久保さんの足跡は残っていないのだろうか。

 記者は11月下旬、分配先の一つの小学校を訪ねた。図書室の運営に詳しい関係者に聞くと、確かに寄付で購われた本たちを見つけることができた。だが、本の由来を伝える表記などは既に撤去されたといい、大久保さんの篤志が徐々に忘れられているようなさびしさを覚えた。

 公益社団法人日本図書館協会(東京)によると、16年度の公共図書館の貸し出し冊数は、福岡市が市民1人当たり年間2・8冊。人口規模が大きくなるのと反比例して低下傾向になっていく指標だが、福岡市は20政令市の中で最も低い。

 本は、多くの人が手に取り、ページをめくってこそ生き続ける。たとえ寄付者の名前は明示されていなくとも、一人の男性が込めた思いは、本の内容とともに読み継がれていってほしい。

=2018/12/11付 西日本新聞朝刊=

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