園児に暴言?しつけ逸脱…見えにくい「不適切保育」 背景に過酷労働も

 「しつけとは言えないような厳しい保育が行われています」。福岡市内のある認可保育所の内情について、元保育士の女性から特命取材班にメッセージが寄せられた。保育士が園児を怒鳴ることは日常的にあり、たたく場面もあったという。取材すると、保育現場の厳しい現状が見えてきた。

 保育所で昨年10月に録音したという音声を聴いた。園児たちのかわいい声に混じり、たびたび女性の保育士が怒鳴っているのが分かる。「おしっこ出る」と訴える園児に「行けばいいやん。なんで泣くと」と声を荒らげ、「なんでここで漏らしたと」と問い詰める。

 「口にセロハンテープを貼ったり、部屋の隙間に追いやって怒鳴ったりするのを見て耐えられなかった」。元保育士の女性は振り返る。先輩保育士に訴えると「ここでやっていきたいなら黙っていた方がいい」と言われたという。女性は昨年春から勤務したが、1年足らずで退職。「自分は何もできず、子どもを助けてあげられなかった」

 福岡市指導監査課によると、この保育所を巡って昨年12月、「問題のある言葉遣いや不適切な保育が行われている」という趣旨の通報があったという。同課は保育所の園長に事実確認して報告するよう要請。一部事実だったことを認めたため、再発防止に努めるよう口頭で指導した。

 保育所の理事長は、取材に「あざをつくるような暴力や身体的な拘束はなかった。力でねじ伏せるような保育士はいない」と暴力行為を否定。「行きすぎた点があったかもしれないが、現在は改善した」と話した上で、こう繰り返した。「保育士の人手不足で現場に余裕がなかった」

 取材班は、この保育所で働く別の女性保育士にも会った。市の指導後、暴言はなくなったが、「スケジュール通りにしないといけないプレッシャーがあり、私自身も園児に怒鳴ってしまいました」と打ち明けた。

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 中村学園大学の笠原正洋教授(発達臨床心理学)は音声テープを聴いて「言葉の暴力だ」と感じたという。「不適切な保育は外からは見えにくい。常態化すると、現場でおかしいという感覚がなくなる。幼い子どもが訴えることも難しい」

 大半の保育所は適正に運営しているはずだが、確かに外部の目は届きにくい。認可保育所に対する自治体の定期的な監査は、原則年1回程度。事前に通告するため、普段の保育内容を確認することは難しい。

 保育士らの労働組合「介護・保育ユニオン」(東京都世田谷区)は今年6~8月、関東や東北地方の保育施設で働く組合員を対象にインターネットでアンケートを実施。保育士や職員25人が回答した。保育士らによる虐待行為を見たことがあるかを問うと、20人が「ある」と回答。「3歳児が言うことを聞かないからといって、いすを投げる」「食べ物を無理やり口に詰め込んで罵倒する」「しつけのためと、暗い部屋に閉じ込める」という記述もあった。

 背景にはやはり、保育士の人手不足があるようだ。多くの自治体で保育所新設が続く一方、配置基準ぎりぎりの人数で運営する施設は少なくない。ユニオンの担当者は「国が定める保育士の配置人数は、休憩時間を想定していない。書類作成など業務は以前よりも多くなっており、明らかに人数は足りない」と話す。

 来年10月から、幼児教育・保育の無償化が始まる。安倍政権の目玉政策だが、保育に詳しいジャーナリストの小林美希さんは「保育士を増やすこと、待機児童の解消を優先すべきだ。ここ数年で、保育の『質』の劣化が避けられない状況になっている」と懸念を示した。

=2018/12/23付 西日本新聞朝刊=

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