貫くのは「言葉を超えた理解」 河瀬直美監督 新作「Vision」

「出会うべくして出会い、作るべくして作られた映画だと思う」と新作について語る河瀬直美監督
「出会うべくして出会い、作るべくして作られた映画だと思う」と新作について語る河瀬直美監督
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人間と自然の交感描く

 言葉を重ねていくことで相手を理解する。当たり前のようなことだが、私たちは言葉によりすぎてはいないだろうか。フランスの女優ジュリエット・ビノシュを迎え、奈良・吉野の山奥で撮影した河瀬直美監督の「Vision」は人間と自然の交感を描き、そんなことを考えさせる映画だ。

 フランスのエッセイスト、ジャンヌ(ビノシュ)は千年に一度出現するという幻の薬草ビジョンを探し求め、吉野の山へやって来た。神秘的な森の中で、山守の智(とも)(永瀬正敏)と自然からの声を察知する謎の女性アキ(夏木マリ)と出会う。

 使用言語は日仏英の三つ。せりふが極度に少ない。「言語が入り乱れ、字幕を考えた時、極力、言葉をなくしてまなざしやアイコンタクトなど表情を重視する構成にした。そのほうが世界中の人たちに伝わる」。河瀬監督は狙いをそう語り「言葉を積めば積むほど本当に言いたいことから離れていく」と付け加えた。

 せりふの少なさとは対照的に、木々の鮮やかな緑とともに葉擦れの音や鳥のさえずり、川のせせらぎが随所に流れ、音の風景が際立つ。

 「人間は見ることで全てを分かったつもりになっている。けれど、聴くことも実は大切。今、それがないがしろにされている」

 数少ないせりふの中には、言葉の存在がかえって疎通を取りにくくしていること、人類が進化しながらも戦争や虐殺がなくならない現状への危機感を明確に入れた。

 「人間が発展、発展といろんなものを食いつぶして生きていくとバランスを失い、滅亡してしまう。シンプルに生きるにはたくさんのものはいらないはず」

 今作は、世界三大映画祭の主演女優賞を獲得したビノシュとの出会いで始まった。昨年のカンヌ国際映画祭で、今作のプロデューサー、マリアン・スロットが引き合わせた。5歳年上の名優と生い立ちから語り合って涙を流し、子どもを持ちながら表現し続ける生き方に共感して意気投合。前作から1年もたたないうちに製作した。

 映画を貫くのは、言葉を超えた理解であり、タイトルになった薬草は痛みにどう向き合い、乗り越えていくかを考えさせる比喩的な存在でもある。「未来に対して次の一歩の踏み出し方を考えてもらえるのではないか」。タイトルには人間の力を信じたそんな希望が込められている。

=2018/06/22付 西日本新聞夕刊(娯楽面)=

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