文化軽視の地方創生では

 熊本地震で被災した文化財の救出活動が続いている。

 損壊した旧家に残る絵巻や古文書など「無名の文化財」を中心に、これまで約1万4千点が救い出された。

 熊本県内外の文化財に詳しい専門家が、被災地を駆け回って文化財を保管し、補修も施す。博物館の学芸員は欠かせない存在である。

 こうした懸命の働きは、山本幸三地方創生担当相には見えていないのだろう。

 地方創生における文化財の活用を語った山本氏は「一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。観光マインドが全くない。一掃しなければ駄目だ」と言い放った。

 学芸員を「がん」にたとえ、「一掃」という荒っぽい言葉を使う無神経さに驚いた。陳謝して撤回したが、それで済む問題ではあるまい。

 観光マインドの欠如を示すために挙げた大英博物館の事例も事実誤認だった。

 資料を集めて保存し、調査研究や展示を通してその価値を市民に伝える。それが、学芸員の仕事である。観光振興を求めるのは筋違いだ。

 海外では、展覧会の企画、資料の管理、補修、教育などそれぞれに専門職を置き、分業体制を確立している博物館や美術館が多い。

 ところが、日本の学芸員の多くは、これらの仕事の大半を担っている。「雑芸員」と自嘲する人もいるほどだ。

 その上、文化財を通した生涯学習や地域おこしのイベントにも奮闘している。こうした多忙ぶりに配慮して、本業に専念できる環境づくりこそ喫緊の課題ではないか。

 経済に明るく、「地方創生とは、地方の平均所得を上げること」と定義する山本氏は、文化財を単なる観光資源と見てはいないか。そうだとすれば、問題発言の根は深い。

 長い歴史と豊かな風土が育んだ文化財は地域のアイデンティティーが宿る宝物である。その価値を軽んじるような地方創生では心もとない。

 学芸員たちが被災文化財の救出に奔走し、汗を流すのはなぜか。山本氏はじっくり考えてほしい。


=2017/04/23付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]