「現代の治安維持法」の意味

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は「現代の治安維持法」とも指摘される。どこがどう似ているのだろう。

 治安維持法は思想や言論に弾圧を加えた「悪法」として知られる。法政大の大原社会問題研究所編著「日本労働年鑑」によると、摘発された人は8万人近いという。国民を萎縮させたのも間違いない。

 実際に治安維持法違反容疑で逮捕、拘束された経験を持つ男女4人が先日、東京都内で記者会見した。4人は95~103歳と高齢だが、居ても立ってもいられなかったのだろう。「共謀罪は形を変えた治安維持法だ」と訴えた。

 治安維持法は1925年に公布された。制定時は7条で共産主義や無政府主義の結社などを禁じた。共謀罪が3回廃案になったのと似て、治安維持法も前段の過激社会運動取締法案が廃案になった。

 中澤俊輔氏著「治安維持法」(中央公論新社)によると、皮肉にも護憲三派の政党政治で誕生したが、与党には反対論もあった。現在の与党とは様子が違ったようだ。

 「言論や出版の自由を侵害しないか」「定義が不明確で捜査当局の乱用が心配」というのが主な反対論だった。法相の答弁が不安定で官僚頼みなのは昔も今も変わらない。

 最大の共通項はやはり思想や信条など「内心」を処罰する恐れがあることだ。犯罪が実行されていなくても処罰の対象になる点も同じだ。

 中澤氏は成立時の問題として「文言があまりに漠然としており、拡大適用につながった」などと指摘する。

 治安維持法は28年と41年の改正を通して65条に膨れ上がり、最高刑は死刑に引き上げられた。適用対象は宗教、学術、芸術などに拡大、刑を終えても再犯の恐れがある場合の予防拘禁も導入された。

 今回の改正案で政府は「東京五輪に向けたテロ対策」と強調する。治安維持法は当時の「国家転覆を目指す過激運動が対象なら仕方ない」との空気も利用した。確かに似ている。杞憂(きゆう)で済ませるわけにはいかない。


=2017/05/28付 西日本新聞朝刊=

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