語り継ぐ大水害の教訓

 上空に停滞した梅雨前線へ湿った空気が流れ込み、長崎県諫早市は1日で588ミリを記録する激しい集中豪雨に見舞われた-。

 市内を流れる本明川など大小の河川が氾濫し、市中心部に架かった眼鏡橋には上流から流木やがれきが次々と押し寄せてきた。川の水があふれて濁流となり、周囲の民家などを襲った-。

 630人の死者・行方不明者が出た1957年の諫早大水害から25日で60年になる。

 国土交通省九州地方整備局のホームページによると、本明川の流域内だけで死者・行方不明は539人に上った。負傷者は1476人で、家屋損壊2221戸、床上・床下浸水3409戸を数えた。

 浸水面積は1770ヘクタールに及び、被害総額は当時で約87億円(現在の換算で約415億円)だった。近代水害史の中でも最大の惨事として記録に刻まれているが、地元でも時の経過とともに災害の記憶が風化しつつあるという。

 諫早市美術・歴史館が毎年開く水害に関する写真などのパネル展も来場者の減少や固定化が顕著だ。60年の節目となる今年も1日から31日まで開催中で、今回は若い人にも関心を持ってもらうため初めて現代美術作品も併せて展示している。大水害を経験した市民は「年々記憶が風化しても、若い世代に継承していくことが大切だ」と言う。心に刻みたい言葉である。

 九州地方は梅雨時に集中豪雨が起きやすく、勢力の強い台風も多く接近するため河川の氾濫や高潮被害、土砂災害などが発生しやすい。

 今月5日から6日にかけて福岡、大分などの九州北部を記録的な豪雨が襲い、甚大な被害が出た。2012年の九州北部豪雨災害もまだ記憶に新しい。今後もいつ自然災害が起きるか分からない。

 家屋や道路はまた造り直せばいいが、人の命は元には戻らない。尊い命を守るために自分が住む地域の防災地図を頭に入れ、気象情報に気を配りながら、どこにいてもすぐ避難できる準備だけはしておきたい。


=2017/07/16付 西日本新聞朝刊=

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