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一番大切な人に嘘をついては

 作家、池井戸潤さんの著書「空飛ぶタイヤ」は大手自動車メーカーのリコール隠しをテーマにした社会派小説だ。

 2002年1月、横浜市で起きた三菱自動車製大型トレーラーの前輪脱落による母子死傷事故などを思い起こさせる内容になっている。

 小説の中で今も心に残る登場人物のせりふがある。

 自社のリコール隠しを知った自動車会社の社員が何をなすべきか自問自答し、悩みを信頼する妻に打ち明ける。

 妻は「会社が成り立っているのは、お客さんがあるからよね。(中略)一番大切な人に嘘(うそ)をついちゃだめよ。会社の場合、それは、お客さんでしょう」と答える。大切な人に嘘をつくような会社は、その時に生き延びても後で必ず行き詰まるとも指摘する。思わず膝を打った。

 三菱自のリコール隠し発覚から、既に十数年が経過している。あの事件の教訓は雲散霧消したのか。自動車業界では、顧客の信頼を裏切る事態が今なお後を絶たない。

 昨年は三菱自で燃費を実際より良く見せかける不正が発覚し、スズキも法令と異なる方法で燃費を測定していたことが判明した。

 そして今度は日産自動車やSUBARU(スバル)で国の規則に反して新車の無資格検査をしていたことが明らかになった。日産の場合は、社長の謝罪会見後も無資格検査を続けていた-というから、あきれ果ててしまう。

 自動車業界だけにとどまらない。神戸製鋼ではアルミニウム製品などのデータ改ざんが判明した。社内調査への妨害も起きたとされ、会社全体にモラルの欠如と隠蔽(いんぺい)の風土がまん延している実態も浮き彫りになった。想像以上に深刻だ。欠陥エアバッグ問題で大手部品メーカーのタカタも今年6月に経営破綻した。

 誠実さと品質の高さで国際的に名声を得てきた「メード・イン・ジャパン」の信用が足元から音を立てて崩れていると言っても過言ではない。

 一番大切な人に嘘はつかない-。信頼回復への第一歩はそこからだ。


=2017/10/30付 西日本新聞朝刊=

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