南北首脳会談の「虚と実」

 私が知る韓国の学者、金容雲(キムヨンウン)氏は開けっ広げな性格だが冷静な人だ。

 「ひょんな縁」で知り合ったという金大中(キムデジュン)氏の大統領就任演説起草委員にも起用された。専門が数学であるためか、歴史認識をはじめ物事を客観的に見ようとする姿勢が印象深い。

 金大中大統領は2000年、金正日(キムジョンイル)朝鮮労働党総書記と初の南北首脳会談を平壌で行った。その功績でノーベル平和賞も受賞した。

 ところがその後、首脳会談を巡り、韓国の財閥首脳らが北朝鮮に5億ドルを不正送金していたことが発覚した(04年に有罪確定)。金大中氏も関与を認めた。

 北朝鮮は06年、初の核実験を行った。「5億ドルが核開発の資金になったとみるのが常識的ですね」。金容雲氏は私の取材に淡々と答えた。拍子抜けするほどだ。韓国の南北融和路線は批判を浴びた。

 07年、今度は盧武鉉(ノムヒョン)大統領が金総書記と会談した。私はそのとき、ソウル市内に開設されたプレスセンターで生の映像を見ながら取材した。

 金総書記は重い糖尿病が疑われていた。会談冒頭の発言に驚いた。「大統領がいらしているのに、病人でもない私が家にいるわけがない」

 緊張を強いられる場での機知である。やはり一筋縄ではいかない指導者だ。ここでも経済協力を引き出した。

 息子である金正恩(キムジョンウン)党委員長はよりしたたかに見える。平昌五輪を最大限に利用し、文在寅(ムンジェイン)大統領に3度目となる首脳会談を呼び掛けた。

 歴史を振り返ると北朝鮮の狙いは分かりやすい。経済支援を受けた旧ソ連が崩壊し、建国した金日成(キムイルソン)主席も死去した。敵に歩み寄ることが得策だ。大義は「平和」である。韓国からは経済支援を受け、日本には植民地時代の清算金を求めている。

 文大統領の前のめりの姿勢が気になる。「祖国統一」が民族の悲願であることは理解する。しかし、いつの間にか北朝鮮は「核保有国」と宣言した。その現実を誰が想像できただろう。

=2018/02/19付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]