葉室麟さんの生前語る 酒席、好きな作品、激励… 小郡市の「狸ばやし」で催し [福岡県]

葉室麟さんの写真の前で思い出を語る東山彰良さん(右)と澤田瞳子さん
葉室麟さんの写真の前で思い出を語る東山彰良さん(右)と澤田瞳子さん
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「長命」を披露する桂歌春さん
「長命」を披露する桂歌春さん
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 久留米市を拠点に、敗者や弱者の視点を大切にした歴史時代小説を生み出してきた直木賞作家葉室麟さん。昨年末、66歳で逝去してから半年がたとうとしている。公の形でのお別れ会はまだ開かれていないが今月3日、葉室さんを慕う作家や落語家が集まり、小郡市上岩田の落語スペース「狸(たぬき)ばやし」で「文学と落語のコラボ 葉室麟を語る」と題した催しがあった。

 イベントは葉室さんと30年来の親交がある狸ばやし席亭の宮原勝彦さんが企画。直木賞作家東山彰良さん=小郡市、歴史小説家澤田瞳子(とうこ)さん=京都府、葉室さんと同じ西南学院大出身の落語家桂歌春さんが参加。約100人が耳を傾けた。

 歌春さんの古典落語「長命(短命)」「たがや」の間に座談会が挟まれた。葉室さんの笑顔の写真を中心に置き、しんみりとせず、葉室さんが愛した酒席での話題が笑いを誘った。

 東山さんは2015年、直木賞の候補になった際に初めて葉室さんに会ったという。「宴会の後、(天神から)2人とも西鉄で帰った。僕が降りるとき、こくりこくりしていた葉室さんを起こした。『分かった!』と言ってたけど、(寝過ごして)そのまま柳川まで」と笑った。

 葉室さんは15年、京都にも仕事場を持ったのを機に、澤田さんとの交流が始まった。お酒を全く飲まない澤田さんが初めて同席した際、葉室さんの発案で割り勘になった。「後で『合わせる顔がない』と思われたみたいで1年くらい会えなかった。それから『あの時は悪かった』と謝られて、その日は朝5時まで飲みました」と懐かしんだ。

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 それぞれが葉室さんの「この1冊」を選んだ。東山さんは直木賞受賞作でもある「蜩(ひぐらし)ノ記」。東山さんは以前から、米作家ポール・オースターの作品に触発され「延々と何かをやらされている感覚を自分なりに小説にしたい」と考えていたという。だが、10年と命の期限を定められた元郡奉行が家譜編さんに従事する「蜩ノ記」を読み「淡々と書き続ける作業の中から、誰かが何かを読み取っていく。葉室さんがもう既にやっていて僕が書くことはない」と思い直したという。

 澤田さんが挙げたのは「刀伊入寇(といにゅうこう) 藤原隆家の闘い」。平安時代、自ら望んで九州へ赴き、海を越え襲来する異民族とも戦った貴族の物語だ。古代史を研究した後、作家に転じた澤田さんにとって「歴史小説はこんなこともできるんだ」と目を開かれたという。「資料が多く、一番書きやすいのは戦国時代と幕末だけど、奈良時代も明治も、葉室さんはあらゆる時代を書こうとされる。幅広い時代に手を伸ばす姿勢は、後輩として勇気づけられる」と力を込める。

 歌春さんは、少年、青年、老年期とそれぞれの道を歩む2人の武士を描いた「銀漢の賦」を挙げ「3回以上読んでいる。言葉が宝石のようにちりばめられている」と感じ入っていた。

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 座談会終盤は、それぞれの今後について語った。東山さんは初めて書いた時代小説「夜汐(よしお)」について、連載前に葉室さんに読んでもらったと明かす。「台湾国籍の自分が日本の歴史を書いて大丈夫なのか。そうしたら葉室さんは『そんなこと気にするな。むしろ東山さんが書くことで、日本の歴史がアジア的に広がりを持つからいいんだ』と言ってくれた」

 歌春さんは闘病中の師匠、桂歌丸さんを引き合いに「本当にしぶとい。歌丸襲名はまだまだ先」と笑わせながら「こうして師匠をネタにできるのはうれしい。葉室さんも、ネタにされてうれしいはずです」-。

 私にはテーブル上の葉室さんの写真が「なん言いようとね」と笑っているように見えた。

=2018/06/08付 西日本新聞朝刊=

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